手話の話を枕に、例の国交省検討会の議事概要から

先月のBlogエントリーの続き的な。

提案されたウェブアクセシビリティの考え方について、レベル「AAA」は、必要な取り組みの対象として「望ましい」という意味での書きぶりとなっているが、「速やかに対応する」という考え方が必要だと考えている。聴覚障碍者バリアフリーを考えた場合は、字幕のみならず、手話も非常に重要な要素となっている。権利条約第 9 条に掲げられているアクセシビリティの考え方には、差別の禁止、会場等の整備、合理的配慮の3点を求めている記述がある。ウェブサイトによる情報提供の考え方では、レベル「AA」である字幕が対象(準拠)となっているが、レベル「AAA」である手話については対象となっていない。最近は手話の動画を加えるホームページが増えつつあり、手話コンテンツの制作は、大きな負担ではないと思っている。そういう意味から、レベル「AAA」ではあるが、手話についても「速やかに対応」するようにしていただきたい。

令和元年度第2回「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準等検討会」議事概要より

とまあ、例の国交省検討会の議事概要が今週になってようやく出てきた、というか駅における車椅子使用者が単独乗降可能なプラットホームの整備やウェブアクセシビリティの確保を推進します!~公共交通機関のバリアフリー整備ガイドラインを改訂~のプレスリリースより後に出てきたというのがまたなんとも。議事概要の中身は中身でさっくり読んだところが上記の引用で面食らったわけですが、まあ、概要なので、元発言がどういうふうになっていたのかまではわからないわけなんですけれども……。

  • 聴覚障害者にとって手話が重要な要素というのは、キャプションが第二言語という人もいるとWCAG 2.0解説書の達成基準 1.2.6 を理解するにもあるとおり。
  • 「最近は手話の動画を加えるホームページが増えつつあり」というのはどのウェブページを指してそう言っているのでしょうか。具体的なウェブページを伺いたいところ。
  • 「手話コンテンツの制作は、大きな負担ではないと思っている。」世の中の大半のコンテンツには手話通訳が存在していないわけで、それはやはりコストの問題があるからに他ならないのでは。
    • ウェブアクセシビリティが考慮されていない交通事業者のウェブサイトも残念ながら散見される中、直ちに手話というところまで行き着くかというと、厳しいですが現実味に欠けていると思うんですよね…。仮に動画あったときに、手話以前にキャプションすらないと思うんですが、それをすっ飛ばして手話を用意せよ、とも取ろうと思えば取れますが真意や如何に。

まあ第1回のときもそうだったんですけれども、やたらと高いレベルを設定したがるのは非常に残念といいますか。第1回での国交省からのできるところから取り組むみたいな姿勢は個人的には好感が持てたんですけれども、結局求めるところは総務省ガイドラインと同等以上みたいなものになってしまったわけで(改定されたガイドラインのウェブアクセシビリティに関するもの)。

ついでにこれは個人的な勝手な想像の産物なのですけれども、もし仮に国交省ガイドラインがレベルAAを目指すのではなく、当初に提示されていた改訂(案)のようにレベルAとAAで取り組めるところから取り組みましょう、となっていた場合に、交通事業者でない一般の事業者が、総務省ガイドラインより簡単にできそうな、国交省ガイドラインを参考に取り組んでみよう、みたいなこれからウェブアクセシビリティに取り組んでいく足がかりになった可能性もあったわけじゃないですか。まあ、それを障害当事者の方々は是としなかったようなので、残念ですねみたいな(知らんけど)。

ところで少し古い話で、ウェブアクセシビリティの祭典なんかで神戸市の取り組みとか聞く機会がありましたけれども、熱心に取り組んでいるにもかかわらず、(過去のコンテンツに問題があることも相まって)実際にはレベルA一部準拠が精一杯なところ、という実情もあったりするわけで。(参考:神戸市:神戸市ウェブアクセシビリティ方針の対象範囲外となるウェブページの一覧及び今後の対応と考え方)とまあ、政令市でこういう現状があるわけなんですよね。

皆さん、というか障害当事者の方々が真に求めているウェブサイトは、WCAGに適合なり準拠なりが宣言されたウェブサイトではなくて、情報が問題なく取得できるウェブサイトだと思ったりしましたが、はてさて。

国交省の交通バリアフリー方面の検討会でウェブアクセシビリティに関する議事概要が結構アレゲな件

お題:バリアフリー:令和元年度第1回「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準等検討会」 - 国土交通省

どうやら公共交通のアクセシビリティ施策に関連して、事業者のウェブサイトについて、ウェブアクセシビリティの基準を作ろうず、という流れになっているっぽいです。公開されているウェブアクセシビリティ確保に向けたガイドラインの改訂(案)なんかを眺めてみると、レベルAとレベルAAに跨いだ「基本」として項目が列挙されており、WCAGのレベルのくびきを解き放つことができるんじゃないかとかは思っているんですが、議事概要を見ると結構なアレゲ感が。ちなみに、第2回は今日開催だったりするわけですが、まあそのうち資料やらが上がってくるでしょう。

議事概要からだと誰がしゃべっているのかがわかんないわけですが、構成員名簿を眺めると、大学、研究所、障害当事者団体、交通事業者(なぜか日航全日空がおらんけど)がずらずらっと並んでいるわけですが、こうせめてどの分野の人が発言したのかとかこう出てこないもんですかねえ。

以下議事概要を複写したものです。なお、●は構成員の発言内容、○は事務局を含む国土交通省の発言内容とのこと。

総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」では、公共的な機関はレベル AA に準拠することが原則となっている。公共交通機関に関してもレベル AA に準拠しているということを全てに対して言う必要があるのではないかと思う。今回の提案を聞いていると、総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」よりも、少し軽くしているように感じられるが誤解か。

○特に軽くしているという訳ではなく、レベル A、AA までは取り組むことが望ましい項目を含めて対応を検討するものとの位置づけである。公共交通事業者はウェブアクセシビリティについて特に進んでいるという訳ではないので、最低限としてレベル A は対応していただく提案であり、余裕があればレベル AA まで取り組んでいただく。レベル AA までを目標とした場合は達成できない恐れがあるため、まずは1歩ずつ行うという考え方をしている

これだけ見ると、国交省の担当者は結構現実が見えてるような気がするんですよね。まずはできるところからやる、と。まあもっとはじめの一歩になる項目は絞ってもいい気はしますが。

●東京都や総務省もレベル AA まで準拠することを推奨しており、最低限行うのがレベル AA までであるというスタンスでないと進められない。

総務省の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」では、2017 年度末までにレベル AA に準拠するようにとなっているため、目標とするところはレベル AA でなければならない。また、ウェブアクセシビリティとコンテンツの話が混同して整理されていると思う。ここでいうウェブアクセシビリティとは、コンテンツにかかわらず、全てレベル AA に準拠するというのが総務省ガイドラインの概略である。その中で、コンテンツによっては、極めて重要な情報がある。その極めて重要な情報に関してはレベルAAA を目指さないといけないというガイドラインにならないといけない。特に、障害がある人にとって重要な情報が、アクセスできない人を作ってしまうということが問題なのではないかと思う。そのため、この基準についても今後議論していただきたい。また、コンテンツとアクセシビリティの話は分けて議論をする必要があると思っている

いやあこのあたり、本当にどの分野の人が言ってるんでしょうねえ。レベルAA準拠とか真の意味で達成できてる地方公共団体、一体どれだけあるのか。

ガイドラインの改訂案に関わらせていただいたため、特に段階を設けた意図について補足をさせていただきたい。現状、ウェブアクセシビリティに取り組んでいただいている組織もあれば、まだ配慮が至っていない組織もある状況である。そこから、一足飛びにレベル AA まで対応することが難しいため、まずは必須となるレベル A から始めていただく。次に、全てのレベル AA への対応が難しい場合には、まずは交通関係で特に利用が多くなりそうな項目から「目安」として改定案に示した順に沿って進めていただくと良いのではないかということで優先順位付けをした経緯がある。ガイドラインとしてレベル AA を目指していただくことは非常にありがたいが、一方で事業者の負担となってしまって全く進まないという状況を避けたいということもある。最後に、レベル AAA の項目については、コンテンツによって達成できるか、適用する方が良いのかというところの判断が難しい項目であり、一般的な方針としてレベル AAA への適合を要件とすることは推奨されていない。取り入れるところを説明する場合には、具体的に事例を書いて説明をしていかなければならず、アクセシビリティの普及を行っているウェブアクセシビリティ基盤委員会等のサイトを参照して、レベル AAA で取り組むべきことについて事例を見ながら判断して頂くようにすることが望ましいのではないかと思う。

この発言者に謎のエールを送っておきます(何)

●事業者がウェブページを作成する際に、自社で制作しているところは少なく、外注をしているところが多いと思う。その際、外注先に仕様を理解してもらうという考え方で言うと、事業者の負担はそれほど大きくないのではないかと思う。ウェブ業者の中には、アクセシビリティガイドラインがあるにもかかわらず、しかもJISがあるにもかかわらず、それに従うために余計にお金をくださいといっている現状があり、これがすごく変である。そのために、障害がある方達に情報が届いていない。尚且つ、国土交通省がずっと行っているソフトとハードを合わせて問題解決をしていくという考え方からすると、ハードが準備できていないところに関しては、どうしてもソフトで必要な情報を提供しないといけないので、その部分に関してはレベル AAA をちゃんとつけて、必要な情報が必要な人に届くということが、とても重要である。その観点を入れて、ハード・ソフトを充足させるために、このウェブをどのように位置づけていくかという議論にしていく必要性があるのではないかと思う。今後の議論の中では、どういう情報がどういう当事者に伝わらないといけないかという観点で、このガイドラインを考えていただくことも、効果的にガイドラインを普及させていくためには重要である。

「ウェブ業者の中には、アクセシビリティガイドラインがあるにもかかわらず、しかもJISがあるにもかかわらず、それに従うために余計にお金をくださいといっている現状があり、これがすごく変である。」(暗黒微笑)

●ウェブアクセシビリティに取り組まなければならない方々が、まだアクセシビリティについて経験が浅いということを聞いているので、そこをどうやって引き上げていくかということが課題である。そういう意味では、目標についてレベル AA で行っていただき、そしてレベル AAA をいずれ目指すという方向で将来的には考えていただきたい。

レベルAAA皆さん好きですねえ…JIS X 8341-3:2016の「レベル」がなんなのか、というところあたりから検討会の面々に国交省は本当に説明できているのでしょうか。

●ウェブアクセシビリティについて、開発をしている事業者はスキルもあり、経験もあると思うが、実際のユーザーのニーズと使い方を把握しながら進めていただきたいと思う。私がいつも仕事をしている視覚障害の方々を見ると、かなり特殊な、非常にユニークな情報の取り方をしている。絶対に大丈夫だと言われた業者にお願いした結果、そのウェブページの会合後に、すぐに改修を求められたという事例もあるので、是非ユーザーのニーズと使い方を把握して進めてもらいたい。

ユーザーテストをすればなんか出てくると言うことはよくある話では。

●目標として、レベル AA を達成することを目指していただきたい。段階的であったとしても、目標を提示する形のガイドラインの書き方の方が良い。

まあ、レベルAAを目指すというのが潮流っぽいのでそうだといいんでしょうけど、ウェブサイトの運用という視点がことごとく抜けているのはどうしたものですかね。

●今後の進め方については、セミナーが非常に重要で、現在、東京・大阪の 2 回となっているが少なすぎる。全国で、5 ヶ所くらいで開催していただきたい。

ご予算次第では。

●情報の入手については、ウェブサイトのみならず、アプリから行うこともあるが、現在、視覚障害者が満足に使えるアプリがなく、そこからの情報が得られていないのが現状である。ウェブサイトのアクセシビリティというところで、アプリも含めた検討をお願いしたい。

まあアプリも原理的にはウェブサイト似たようなものなはずなんですけど、アプリはアプリで実装という意味でウェブサイトとは別世界ですからね……。

という感じでざっくりと眺めつつ、てきとうなコメントを付けてみましたが、政府の検討会でこの程度のレベルで本当にまともなガイドラインやウェブアクセシビリティ施策ができあがるのでしょうか。頭を抱えるしかない感じではありますが、これが現実と言うことでしょう。