新型コロナウイルス下の2021年の活動方針っぽいもの

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

実はこれとは別なメモ書きみたいなものをちょっと書きかけてたんですけれども、そういえばブログの書き初めはだいたい今年の抱負的なものを書いてたなと。ちなみに去年はこんな感じでした(オリンピックイヤーであるところの活動方針みたいなやつ

こういうご時世ということもあって、この年末年始は帰省しませんでしたが、やはり新型コロナウイルスでいろいろな活動が制約されているんですよね。引きこもり万歳っ子なので巣ごもりは大歓迎なのですけれども、去年のようにオタク的な活動としては映画館が制限されるとつらいものがあります(幸いそこまで厳しい期間は長く続かなかったものの、いろいろな作品の封切りが後ろ倒しになったのは苦い経験ではあります)。むしろ映画館よりも図書館に気軽に通えないのがつらいですね(たとえば、都立図書館は三が日だけではなく、延長して成人の日まで休館するみたいです。新型コロナウイルス感染症への対応に伴う来館サービスの一時休止及び来館しなくても利用できるサービスの提供等について

という状況なので、調べ物も制限されるわけでして、地味に拙ブログに影響を与えるという。まあ、書店は開いているのでちょっと立ち読みみたいなものはできますけれども、所詮は立ち読みなのと、池袋まで出るのが面倒くさいってのはありますね(ジュンク堂書店池袋本店以外の本屋を探せというのはありますけども。)

さて、書籍と言えば書く方のHTMLな本ですが、毎年なんだかんだここで書いているものの、去年も結局出る気配がなく、出す出す詐欺っぽくなっていますね(しろめ)。しかし、ゴールデンウィークまでに脱稿するというスケジュールの立て直しが図られたこともあり、今年こそ本当に出します。

ところで翻訳のほうですが、個人活動としては去年はひっそりとgraphics-aria-1.0をアップロードしていますし、今年もそれにならってひっそりとなにがしかの勧告を用意しておきたいと思います。WAI-ARIA 1.2は今年中に翻訳になるのかどうかは怪しい感じがしますので…。

また、WAIC WG4の活動のほうは、上半期にどこまでWCAG 2.1達成方法集をメンバーで前に進めることができるのか…下半期はWCAG 2.2が勧告になっているはずなので、そちらに注力していきたいというのもありますが、さてどうなることか。

ブログ方面の活動方針はこんなところでしょうか。Twitterについてはだいたいあんな感じですが、今以上にカオスにしていきたいという謎の願望(?)もあったりします。ツイートとフリートとうまく使い分けられる日は来るのでしょうか…。

とまあ、健康に気をつけつつ、無事にかつお気楽に今年も過ごしていければと思います。

「色覚」をめぐる知識のアップグレード――『「色のふしぎ」と不思議な社会』読了感想

先月にSlackのA11YJで『「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論』を知って、この冬休みにようやく読み切りました。1行で感想を述べるなら、「色というものがどう見えるのか?というフレーズが少しでもあなたの琴線に触れるのであれば、書店の店頭で手に取ってまずはさわりを読んでみることをおすすめします。」というところです。

少し古い話になりますけれども、1着のドレスをめぐって「青と黒」なのか「白と金」なのか多いに盛り上がったこと(参考:日本語版WikipediaThe dress)を覚えているTwitterの民もいるでしょう。この話は国際色覚学会でも取り上げられたそうですが、学会に参加するような研究者に取材するなどして、著者が取材しうる範囲で科学的な裏付けももって色覚についてあぶり出しており、力作と言っても過剰な過大評価にはならないかなあと。ただし、「色覚異常」領域の眼科臨床に対する不信感というものもあって、少しそれが必要以上に強く出ている箇所が見受けられるという若干の嫌いもあることは附言してもよいでしょう。

しかしながら、いろいろあって小中学校での色覚検査が復活しつつあること(参考:必要か差別か? 学校での「色覚検査」復活の謎に迫る)も踏まえつつ、著者自身が学校での色覚検査で色覚異常と判定されていたことも相まってというところもあり、その側面では当事者性の裏返しではあります。実際、かつての日本では進学や就労において「色覚異常」の今にして当時を振り返れば強烈な差別があったという歴史があり、本書ではそのことについても触れています。そのような過去を踏まえると、果たして学校での色覚検査を是としてよいのかというのは至極真っ当な疑問であります。この疑問に対して、スクリーニングの原則という観点からは学校での色覚検査に対して本書では否定的な見解に至っており、その結論には筆者も納得するところではありますが、(話が若干飛躍するものの)もしかしたら福島の甲状腺検査に関しても似たようなことが起きているのかもしれない……など思いました。

そして、色覚多様性という用語にも触れています。これは日本遺伝学会が2017年に用語の見直しを行ったものであり、新聞で報道されたため記憶にある読者もいるかもしれませんが(拙ブログでも触れました色覚異常という言葉に関するメモを参照)、用語自体の色覚多様性については本書を読んでもやはりピンとこないというのが筆者の本音ではあります(それでも、「色覚異常」という用語よりかはより良いとは思います)。ただ、用語としてしっくり来ないことについて筆者がそのまま多様性を否定しているということではありません。

話が少し変わるのですけれども、色覚の多様性というよりもむしろ連続性で思い出したのは、性スペクトラムというものです。これは、筆者が偶然にもNHKの番組を見て知ったものなのですが(参考:この世から男が消滅!? 最新研究で明かされる“性”とは? ヒューマニエンス 〜40億年のたくらみ〜【2分動画】|予告動画 |NHK_PR|NHKオンライン)、要は生物において雌雄がくっきりはっきり分かれるというよりもむしろ、性には連続性があるという考え方になります(参考:新学術領域研究「性スペクトラム」トップ)。性スペクトラムについてはまだ研究途上というところはあるのですが、離散的と捉えるのではなく連続的と捉えるというサイエンスのトレンドがあることは確かのようです。

話を元に戻しますと、色覚の多様性という観点からは、ヒトが如何にして3色覚を獲得したのかという生物学的な切り口も本書ではなされています。他の生物のと比較も鑑みることで、ヒトのマジョリティの色覚を正常な色覚とし、そうでないものを異常な色覚とするのは、種の多様性の観点からも疑問であると本書では述べられており、多いに納得するところであります。

また、著名な色覚の検査である石原式についても本書は触れています。石原式は「色覚異常」を検出するのに非常に有効な手段である一方で、その限界があるというところにも踏み込んでいます。とくに航空分野においては色の弁別能力は重要なものです。コーナン・メディカル社と米空軍航空宇宙医学校で共同開発されたColorDx CCTやイギリス民間航空局の委託を受けてロンドン大学シティ校で開発されたColour Assessment & Diagnosis (CAD)については、実際に著者がテストを受けており、石原表ではわからない定量的な色の弁別能力の識別方法について垣間見ることができます。

この石原表は日本発の素晴らしい検査方法ではあるのですが、石原表が一定以上の成果を出しているがゆえに、そこから日本の眼科領域は進歩していないのではないだろうか…という著者の問いかけについて、その是非も含めて眼科領域の専門家は何らかの答えを用意する必要があるのかもしれません。

最後に、ウェブアクセシビリティというところでは、WCAG 2達成基準の「色の使用」や「コントラスト比」が直接に色覚云々というところに響いてくることはないとは認識している一方で、それでもブラウザーで色覚をシミュレートしようと思えばできるようになっているわけです。もっとも、WCAGにとらわれる必要もないわけなのですが、ユニバーサルなデザインというところではやはり色に関する事項というものはついてまわるわけです。本書のタイトルには『2020年代の「色覚」原論』とありますが、タイトル負けすることなく、色覚に関する事項がふんだんに盛り込まれており、色覚に関する知識をアップデート、もといアップグレードするにはうってつけの書籍だと言えるでしょう。

とまあそんなところです。やっつけで書いているところもあるので多分に怪しいところもあるでしょうが、気づいたら晦日になっていて、ブログの更新が自分の中で危ぶまれていたものの、何とかなりました……というかしました。

それでは、よいお年を。

「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本)

「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本)

  • 作者:裕人, 川端
  • 発売日: 2020/10/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)