ウェブアクセシビリティは合理的配慮ですか?(追記あり)

一般にウェブアクセシビリティは、合理的配慮の事前的改善措置となる、環境の整備に分類されます。総務省みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)によれば、

みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)のスクリーンショット

障害者差別解消法(平成 28 年 4 月 1 日施行)において、ウェブアクセシビリティを含む情報アクセシビリティは、合理的配慮を的確に行うための環境の整備と位置づけられており、事前的改善措置として計画的に推進することが求められています。

とあり…などと自信満々に答えられてたのですが、政府広報オンラインウェブアクセシビリティとは?分かりやすくゼロから解説!という記事(下記スクリーンショット中の下線は筆者によります。*1)によると、

ウェブアクセシビリティとは?分かりやすくゼロから解説!のスクリーンショット

障害者のある人への合理的配慮とは、(中略)ウェブサイトの場合ではJIS X 8341-3:2016に準拠したウェブサイトを作り、ウェブアクセシビリティを確保することがこれに当たります。

とあるわけで、JIS X 8341-3:2016*2に準拠したウェブサイトが合理的配慮に当たる、と読めるわけですね…。これは、みんなの公共サイト運用ガイドラインと言っていることが違うように思いますが、本当のところはどうなんでしょうか…?*3(2023-10-25時点で、政府広報オンラインの内容が修正されていることを確認しています。最後に追記をしています。)

さて、そもそも合理的配慮とは何でしょう?というのは、内閣府リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」がわかりやすく説明されていると思います。*4

リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」のスクリーンショット

このリーフレットの中にはアクセシビリティという言葉そのものは出てきませんが、リーフレット10ページの「障害のある人への適切に対応するためのチェックリスト」の2つ目に、「障害のある人にとってのバリアとなる社内のルールやマニュアル、設備等がないか確認しましょう」という項目があります。ここでは、

マニュアルの見直しや研修の実施等のソフト面の対応や、施設のバリアフリー化等のハード面の対応といった、合理的配慮を的確に行うために、不特定多数の障害者を対象として行う事前改善措置のことを「環境の整備」といいます(「環境の整備」は努力義務)。

という説明がされています。この「施設のバリアフリー化等」にウェブアクセシビリティも含まれていると捉えるのが自然と言えるでしょう。

話が変わって、内閣府障害者差別解消に関する事例データベースという事例集があります。そこで「アクセシビリティ」をキーワードとして検索すると、次の3件がヒットします*5。ちなみに、いずれも環境の整備の事例として分類されています。

【銀行において、利便性向上の観点から誰もが使いやすいATMを設置した件】銀行内でアクセシビリティ対応を進めるにあたり、利便性向上を考え車椅子利用者や、視覚障害の方など、誰もが使いやすいATMを採用するため検討を行った。

【銀行において利便性向上の観点から電子記帳台を設置した件】銀行内でアクセシビリティ対応を進めるにあたり、利便性向上を考え、誰もが手続しやすい窓口となるような検討を行った。

【百貨店において利便性向上の観点から車椅子専用駐車スペースの表示方法を改善した件】百貨店においてアクセシビリティ対応を進めるにあたり、利便性向上を考え利用者が来店しやすい店舗となるよう車椅子専用駐車スペースの表示方法について検討を行った。

このように、ウェブアクセシビリティではないアクセシビリティは検索結果としてヒットしますが、残念ながらウェブアクセシビリティについての事例は存在しません。

この事例データベースで「ウェブアクセシビリティ」という言葉が1つもヒットしないという状況が、世の中でウェブアクセシビリティという言葉が知られていないとも捉えられるわけです。もっとも、知られてないからこそ、政府広報オンラインで記事にされているわけですけども…。

まとめますと、ここまで調べた限りでは、ウェブアクセシビリティは合理的配慮というよりかは、環境の整備に当たると考えるのが適切だと筆者は捉えています。

ほかにもいろいろと言いたいことはあるのですが*6、まずは事例データベースにウェブアクセシビリティが掲載されるところからではないかと思いました。


2023-10-25追記

政府広報オンライン「ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説!」のスクリーンショット

くだんのコラムについて、

また、その合理的配慮を的確に行うため、環境の整備が努力義務となっており、ウェブサイトの場合ではJIS X 8341-3:2016に準拠したウェブサイトを作り、ウェブアクセシビリティを確保することがこれに当たります。

と環境の整備ということが明記されるようになっていました。ということで解釈の不一致はなくなった模様です。

*1:「みんなの公共サイト運用ガイドラン」と脱字を起こしているのですが、いろいろと心配になりますね…

*2:規格そのものはJIS検索で参照できます。技術的にはWCAG 2.0と同一です

*3:それはそれとして、「障害者のある人」は語彙として変ですね…。

*4:合理的配慮とは何なのかについてはリーフレットに説明を譲ります

*5:検索結果のURLが張れないので、結果の一部を引用しています

*6:そもそもの話として、ウェブアクセシビリティが「合理的配慮」なのか「環境の整備」なのかという分類そのものが、あまり有意義なものではないと思っています

メモ:WCAG 2.1 (2023)では、達成基準4.1.1は常に満たされていると扱うべきという話

ソースは2023年9月21日付けで更新されたWCAG 2.1。観測の埒外からの更新はちょっと…。
https://www.w3.org/TR/2023/REC-WCAG21-20230921/#parsing

Updated W3C Recommendation: Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.1 | 2023 | News | W3C

以下、達成基準4.1.1で変更された注記の仮訳。

NOTE
This Success Criterion should be considered as always satisfied for any content using HTML or XML.

注記
この達成基準は、HTMLまたはXMLを使用するすべてのコンテンツについて常に満たされているとみなされるべきです。

NOTE
Since this criterion was written, the HTML Living Standard has adopted specific requirements governing how user agents must handle incomplete tags, incorrect element nesting, duplicate attributes, and non-unique IDs. [HTML]

Although the HTML Standard treats some of these cases as non-conforming for authors, it is considered to "allow these features" for the purposes of this Success Criterion because the specification requires that user agents support handling these cases consistently. In practice, this criterion no longer provides any benefit to people with disabilities in itself.

Issues such as missing roles due to inappropriately nested elements or incorrect states or names due to a duplicate ID are covered by different Success Criteria and should be reported under those criteria rather than as issues with 4.1.1.

注記
この基準が作成されて以来、HTML Living Standardは、ユーザーエージェントが不完全なタグ、不正な要素のネスト、重複した属性、および一意でないIDをどのように処理しなければならないかを規定する明確な要件を採用しました。[HTML]

HTML Standardはまた、これらのケースの一部を著者に対して不適合として扱いますが、仕様ではユーザーエージェントがこれらのケースの一貫した処理をサポートすることを要求しているため、この達成基準の目的では「これらの機能を許可する」と見なされます。実際には、この基準自体は、もはや障害のある人々に何の利益ももたらしません。

不適切にネストされた要素による役割の欠落、IDの重複による不正な状態や名前などの問題は、別々の達成基準で扱われており、4.1.1の問題としてではなく、それらの基準に基づいて報告されるべきです。