結論から言えばHTML 5.1が勧告になっても今のところ訳出する気は無いですし、HTMLに関して現行のW3C勧告プロセスが維持され続ける限り、将来のバージョンについても訳出する気はありません。すべてのウェブ開発者 *1 はWHATWG HTML Standardを参照すべきですし、筆者の可能な限りHTML Standardの訳出を更新し続けます。
W3C Web Platform Working Group (WPWG)のco-chairであるLéonie WatsonによるW3Cブログのエントリーが公開されたのが6日付けで、Publickeyの記事が14日付けという謎のタイムラグがありましたが、ともかく、にわかにHTML 5.1仕様に注目が集まっているようで、この弱小ブログのアクセスがなぜか昨日増えていたあたり、まあそういうことなのでしょう。
まず、W3Cブログエントリーによれば、勧告(REC)を2016年9月に発行する予定である、と。このためには、勧告候補(CR)を6月中旬には出さないといけない(W3Cの勧告プロセスルールによる縛り)という話ですが。
2012年に当時のHTML Working Groupから出されたPlan 2014という文書に、すでにHTML 5.1に関する記述がありました。これによれば、2014年の第3四半期にはLC*2に突入する予定で、2015年の第1四半期にCR(当時)、2016年第4四半期にRECという比較的余裕を持ったスケジュールでした。HTML 5.1がPlan 2014に従うならばとっくにCRになっていたはずですが、残念ながらまだCRに到達していません。
また、「3月にはWeb Platform Working GroupのエディタたちによってGitHubで仕様文書の公開が始まったことが公表され、誰でも仕様の修正や追加の提案をGitHubを通じて送ることができるようになりました。」とPublickeyの記事は伝えていますが、実際に"現在のGitHub上のコミットログで最古のもの"*3は、2016年1月20日付けでGitHubの公開がされており、1月19日にはすでにHTML planというタイトルのメーリングリストでの投稿でGitHubでの策定をはじめる旨が公表されていました。
このWPWGの初期コミットですが、散々たるものでした(あまりの酷さに筆者も目を疑いました)。その詳細は、1月21日付けのWHATWG HTMLエディターであるAnne van KesterenのブログW3C forks HTML yet again — Anne’s Blogに書かれていますが、
- HTML5.0時代のコミットログを削除(現在はhttps://github.com/w3c/html-oldに復活)
- 謝辞セクションをごっそり削除*4
- WHATWG HTMLからブランチを切ったものだが、どうやって変換したのか文章化されていない
というようなコミットであり、
- WPWGのメーリングリストで議論しなかった
- Anne曰く、WPWGのメンバーですら議論されていない
とまるで相談されたものではなかったとされています。GitHubというツールでもって一見透明化されているように見えますが、GitHubにWPWGの手でHTML 5.1のドラフトが公開されるまでの経緯は少なくともネットで見聞きできる範囲ではかなり不透明なことが窺えます。
上記のAnneのブログエントリーではまた、緑色のスタイルシートであるWHATWG HTMLを使用するように推奨しています。このAnneのブログエントリーを契機として、筆者はW3C HTML 5.1の訳出の更新を諦め、WHATWG HTML Standard 日本語訳の作成に大きく舵を切ることになりました。
というような筆者の知る限りの状況ですので、HTML 5.1 日本語訳は単なる歴史的なリソースであり、仕様の説明として参照しないようお願いいたします。
「代わりにHTML Standard日本語訳を参照することを強く推奨します。」と日本語訳の冒頭に記載するだけではヤフージャパンの人には伝わらないようなので(アクセシブルなモーダルダイアログの作り方 #scripty05のスライド31枚目)、もっと目立つ訳注を各ページに入れるべきでしょうか、あるいはレガシーな日本語訳はやはりGitHubから削除しないといけないのでしょうか。