WCAG 2.0(日本語訳)ことISO/IEC 40500:2012*1ことJIS X 8341-3:2016はウェブアクセシビリティの「指針」として知られているわけですが、令和6年版 障害者白書では、我が国のアクセシビリティに関する規格体系としては次の図のように説明されています。
つまるところ、個別規格としてのJIS X 8341-3の上位概念として、JIS X 8341-1なる規格があるということです。では、このJIS X 8341-1とは何なのでしょうか?
JIS X 8341-1は、最初2004年に制定され、その後国際提案されたものです。2010年の改正では、ISO 9241-20:2008の国際一致規格*2となりました。その後、国際規格がISO 9241-20:2021として改訂されました。ここで問題となったのが、2021年のISO 9241-20の内容が、2008年の内容と大きく変更されたものであるということです。国内的な事情から*3、2024年に改正されたJIS X 8341-1は、追補が出され、対応する国際規格なしの規格となりました。そして、ISO 9241-20:2021に対応する国際規格は、JIS Z 8529:2024として新たに制定されました。
と、言葉だけつらつら書いてもわかりにくいと思うので、図にしてみました。
JIS X 8341-1とJIS Z 8529、それぞれの規格名称は次のとおりです。
- JIS X 8341-1
- 高齢者・障害者等配慮設計指針-情報通信における機器,ソフトウェア及びサービス-第1部:共通指針
- JIS Z 8529
JIS Z 8529 (ISO 9241-20:2021 (MOD))は、いかにもISO 9241シリーズ*4らしさの出た規格名称となりました。見方を変えれば、JIS X 8341シリーズは日本固有の規格群であって、国際規格群としてはISO 9241シリーズが存在しているということです。
JIS Z 8529:2024の中身を覗いてみる
さておき、もはや日本独自の規格となったJIS X 8341-1の話をしてもあまり意味がないと思いますので、国際対応規格のあるJIS Z 8529の内容を見ていきたいと思います。「1 適用範囲」には次のように記載されています。
この規格は,次の情報を含むアクセシビリティに対する人間工学的アプローチの設計指針を示す。
a) 人とシステムとのインタラクションにおけるアクセシビリティの重要性
b) ISO 9241 規格群の原則とアクセシビリティとの関係についての考察
c) JIS Z 853 0のプロセスで,アクセシビリティに焦点を当てた活動に関連する記載
d) インタラクティブシステムのアクセシビリティに関連する規格の参照
ここで面白いのが、d)です。附属書Aでは「(参考)世界標準のアクセシビリティ指針」として、ISO 9241シリーズを含めた関連する規格類がずらりと提示されています。ウェブアクセシビリティに関係しそうなものをピックアップしてみます。
JIS Z 8529:2024 附属書A「(参考)世界標準のアクセシビリティ指針」
A.2「アクセスしやすい製品及びサービスを開発するための指針」では、ISO/IEC 30071-1:2019 アクセシブルな ICT 製品とサービスを作成するための実践規範が挙げられています。これに関しては拙ブログの(メモ)W3Cアクセシビリティ成熟度モデルの話が参考になるかもしれません。
A.3「ソフトウェア,コンテンツ及びハードウェアのためのアクセシビリティ指針」では、ソフトウェアやコンテンツのアクセシビリティガイドラインとして、次のものが挙げられています。
- JIS X 8341-6:ソフトウェアのアクセシビリティ
- JIS X 8341-3(WCAG 2.0(日本語訳)):ウェブコンテンツのアクセシビリティ
- ISO/IEC 20071-11:2019:画像の代替テキストの指針
- ISO/IEC TS 20071-21:2015 音声解説の指針
- ISO/IEC 20071-23:2018:音声情報の視覚的表現(キャプション及び字幕を含む)の指針
- ISO/IEC TS 20071-25:2017 :キャプション、字幕、その他画面上のテキストを含む、ビデオ内のテキストの音声表現の指針
ISO/IEC 20071シリーズとか興味深いですね。JIS化されてないので、内容をがっつり読むとなると、国会図書館(関西館)で閲覧or東京本館に取り寄せなのがなかなか難ありですけど…。
A.4の「開発者向けアクセシビリティ指針」では、ATAG 2.0(日本語訳)を挙げています。
A.5「多様なプラットフォーム及び支援技術に関するアクセシビリティ指針」では次の規格類が挙げられています。
- UAAG 2.0(日本語訳)
- ISO 13066-1:2011 :支援技術に関する相互互換性の指針
- ISO/IEC TR 13066-2:2016:Windows MSAA / Automation API
- ISO/IEC TR 13066-3:2012:Accessible2 API
- ISO/IEC TR 13066-4:2015:Linux/UNIX graphical environments accessibility API
- ISO/IEC TR 13066-6:2014 :Java accessibility API
- WAI-ARIA (WAI-ARIA 1.3日本語訳)
ISO 13066シリーズとして、おなじみ?の各種OSのアクセシビリティAPIがISOに存在するのはびっくりですね…なぜかmacOSが見当たらないですけど…。
なお、ハードウェアも含めたアクセシビリティ関連規格は、情報アクセシビリティ標準化の動向も詳しいです。
JIS Z 8529:2024 4「人とシステムとのインタラクションにおけるアクセシビリティ及び人間工学の考え方」
さて、この箇条4*5では、ISO 9241シリーズには、アクセシビリティにフォーカスした2つの規格(ISO 9241-171:2008、ISO 9241-971)があることを述べています。ちなみに、JIS X 8341-6:2013 (ISO 9241-171:2008 (IDT))です。わぁお。
まあ実際、JIS X 8341-6:2013を読んでいくと、「あっ、これ進研ゼミでやったところだ!」みたいなノリでWCAG 2.2で見たことあるやろ…というのがわんさか出てきます。本当です。なので、JIS X 8341-6:2013をウェブアクセシビリティ民はみんな読みましょう…!と勧めたいところですが、なんと国際規格はISO/DIS 9241-171として絶賛改訂進行中です。
で、そのDIS*6のAnnexでは、
- Annex A for mapping with WCAG 2.2
- Annex B for mapping with UAAG 2.0
- Annex C for mapping with ISO 9241-171:2008
という感じで、WCAG 2達成基準*7とのマッピングだけでなく、UAAG、そして旧規格とのマッピングが提供されるみたいです。JIS X 8341-6:2013がだんだん読みたくなってこなくなくないです…?まあ、JIS Z 8529:2024の5.2から参照しているJIS X 8341-6は箇条5だけなんですけども。
まとめのようなもの
JIS X 8341-1の話といいつつ、JIS Z 8529の話をしていたのですが、いかがでしたでしょうか。JISの規格番号から国際対応規格がわかりにくいのが実に不便ですね…。JISについてはウェブ上で閲覧することもできますが、それなりに大きな図書館であればJISハンドブック*8が置いてあるので、こちらでも読むことができます(JIS Z 8529は新しすぎるので未収録ですが)。
というアクセシビリティに関連するJISをほんのちょっぴり紹介をしたところで*9、このあたりにしたいと思います。
*1:規格番号については国会図書館のリサーチ・ナビのISO規格とはを参照
*2:リサーチ・ナビのISO規格やIEC規格を翻訳して作成されたJIS規格も参照
*3:そのあたりの事情は、2022年に榊原先生が出されたアクセシビリティに関する人間工学関連規格の動向 -9241-20の改定に伴うアクセシビリティ関連規格の課題と今後についての検討-が詳しいです
*4:ISO 9241シリーズは少し古いですが情報分野における人間工学国際規格への取り組みがわかりやすいでしょう
*5:JISではもっとも大きなセクションを「箇条」と呼びます。JIS Z 8301箇条6も参照
*6:ISOのステータスについてはJISCのISO/IEC規格の開発手順あたりを参照
*7:ISO/IEC 40500の改訂がされれば「WCAG 2.2」と書かなくなるのかしら?
*8:大体が37-3 人間工学に収録されています。JIS X 8341シリーズは38 高齢者・障害者等 [アクセシブルデザイン]収録です
*9:まあこれを書いている当のわたしも、ちゃんと読めてるかというと怪しいんですが…