(メモ)音声解説は翻訳であるという考え方について

図書館で翻訳学入門*1という書籍が目について、パラパラとページをめくったところ、視聴覚翻訳(audiovisual translation)という文言がありました。11.2.2節に次のような記述があります*2

それでもガンビエ(Yves Gambier)の論文は,様々な種類の翻訳活動を同定し,翻訳を基盤とする古い範疇を再考させるに至った点において,特に時宜を得ていた.多々ある中で,いくつかを以下に記す.

  • 異言語間字幕(interlingual subtitling).現在では,映画,ビデオ,DVD用にさまざまな形式がある.映画・ビデオ字幕は「オープン字幕」といわれ,字幕が映画フィルム版の欠かせない一部をなしている.DVD字幕は「クローズド(closed)」かもしれず,視聴者が字幕の有無もしくは言語を選択することができる.
  • 同一言語内字幕(intralingual subtitling).聴覚障害者のためのもので,規定要件になりつつある.
  • 音声ガイド.舞台や映画の動きについての,主として同一言語による視覚障害者用の音声解説.

字幕というと、例えば洋画の字幕が一般的には浮かぶことが多いと思いますが、ウェブアクセシビリティの観点からは、言語間の翻訳が発生しない字幕が主な対象になると思われます。日本語から日本語への字幕であっても、翻訳学として扱う対象となるというのは興味深いところであります。引用部分にある音声解説(音声ガイド)についても同様でありますが、別の節では「テイラー(Christopher Taylor)(テクスト書き起こし(transcription))」として触れられており、これもまた翻訳学の範疇に入るということになります。

ここまでで、時間依存メディアでの字幕や音声解説、あるいはトランスクリプトが翻訳学の対象となることが見て取れるわけですが、これはテキストによる代替に敷衍することができるのではないでしょうか。つまり、画像の代替テキストもまた、ある種の翻訳であるといえるのではないでしょうか。たとえばある文章を英語から日本語に翻訳するという行為には翻訳のスキルが要求されるわけですが、画像情報をテキストに落とし込む作業もまた翻訳であり、同様に翻訳のスキルが求められるといえるのではないかと。

これは見方を変えれば、ウェブアクセシビリティを担保するに当たっては、ウェブアクセシビリティを(第三者が)チェックする側の翻訳スキルが求められるのもちろんのこと、ウェブサイトの運用者もまた、翻訳スキルが必要であることを改めて認識させるものであります。つまるところ、音声解説にせよ、画像の代替テキストにせよ、正確性を伴ったものを作るには、ある種のスキルが必要という取り留めのない話でした。

*1:ジェレミー・マンデイ. 翻訳学入門. 鳥飼玖美子監訳. みすず書房, 2009. 363p, ISBN 978-4-622-07455-7.

*2:引用部分の「いくつか」は、関係しそうなものピックアップしています