みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)で参照する法律の謎

あんまりまとまってない…というか書いてはみたものの、致命的な勘違いがあるかもしれないので、鵜呑みにしないでください。

前置きがタイトルからはちょっとずれるのですけれども、筆者が参加したもっとも直近のウェブ関連イベントでは、神戸のアクセシビリティの祭典なんかでの木達さんと持田さんの対談で、アクセシビリティの法律の強化が必要だよね、みたいな話が出ました*1

まあ、このときは懐疑的なツイートをTwitterでしてた気もするんですけれども*2、最近いろいろあって気が変わりまして、ウェブアクセシビリティの日本におけるステージを強引にでも引き上げるには、法律で強制するしかなかろうという宗旨替えをするようになり。

でまあ、よりウェブなアクセシビリティを強力に推進するような新しい法律を、もし作るという話になるにしても、現状の法律を知らないと…ということであれこれ調べてたところ、よく分からない現象に遭遇しました…と。


ところで、政府には高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)というものが存在しまして、筆者もあんまり詳しくないんですけれども、このページにIT関連法律リンク集からいろいろな法律にリンクしています。一番上の辿れますけれども、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法、2001年施行)を読んでみますと*3

(定義)
第二条 この法律において「高度情報通信ネットワーク社会」とは、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会をいう。

(利用の機会等の格差の是正)
第八条 高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たっては、地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく情報通信技術の利用の機会又は活用のための能力における格差が、高度情報通信ネットワーク社会の円滑かつ一体的な形成を著しく阻害するおそれがあることにかんがみ、その是正が積極的に図られなければならない。

いやなんでしょう、IT基本法第8条とウェブなアクセシビリティって直接的に関係するんじゃないですかね…?とふと思ったりしたんですが、どうでしょうか。ちなみにW3C/WAIのWeb Accessibility Laws & Policiesには、"Basic Act on the Formation of an Advanced Information and Telecommunications Network Society"とありまして、これは高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の英訳*4ですから、筆者の勘違いではないでしょう、たぶん。

あとまあ、IT総合戦略本部のページで執筆時点で一番上にある「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定されました。(PDF)を開くとずらずらーといっぱいあって、アクセシビリティで検索すると実はいくつかヒットするのですが(これは脇道にそれてしまうので、もし書くとすれば別なエントリーに譲ることにします)、[No.6-6] Webアクセシビリティ確保のための環境整備等というのが、官民データ活用推進基本法(官民データ基本法、2016年12月施行)第14条関係ということで書かれています。

(目的)
第一条 この法律は、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて流通する多様かつ大量の情報を適正かつ効果的に活用することにより、急速な少子高齢化の進展への対応等の我が国が直面する課題の解決に資する環境をより一層整備することが重要であることに鑑み、官民データの適正かつ効果的な活用(以下「官民データ活用」という。)の推進に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務を明らかにし、並びに官民データ活用推進基本計画の策定その他官民データ活用の推進に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、官民データ活用推進戦略会議を設置することにより、官民データ活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民が安全で安心して暮らせる社会及び快適な生活環境の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「官民データ」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。第十三条第二項において同じ。)に記録された情報(国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになるおそれがあるものを除く。)であって、国若しくは地方公共団体又は独立行政法人独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二十六条第一項において同じ。)若しくはその他の事業者により、その事務又は事業の遂行に当たり、管理され、利用され、又は提供されるものをいう。

(利用の機会等の格差の是正)
第十四条 国は、地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく情報通信技術の利用の機会又は活用のための能力における格差の是正を図るため、官民データ活用を通じたサービスの開発及び提供並びに技術の開発及び普及の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。

とまあ、IT基本法と似たような文言が書かれており。これがウェブアクセシビリティと関係することになっている、ことになります。まあ、法律の謳うところの官民データがあくまでデータそのものにフォーカスしていると思われるので、ウェブのデータが含まれるのかというと、理念的には含まれていない…と思います。


翻って、ウェブアクセシビリティと法律という文脈でもっとも引き合いに出されるのが障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法、2018年4月施行)で、概要は1.情報アクセシビリティの法律上の位置づけ:障害者施策 - 内閣府に書いてあるとおりかなと。まあ、具体的には総務省にあるみんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)(2016年4月公開)のとおりなんですけれども、ここで「障害者差別解消法により対応が求められています」と。ここにはIT基本法の文言は一切出てきません。なお、引用されている障害者差別解消法の条文はこんな感じです。

(社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)
第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

公開の後から施行された官民データ基本法が、みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)から参照できないのは当然ですが、それよりも遙か以前からあったはずのIT基本法が参照されないのはなぜなんでしょうか?教えて偉い人。

*1:アクセシビリティの祭典 2019に参加 #accfes | 覚え書き | @kazuhito にもそういうことが書いてある

*2:JAC Vol.1の韓国からのゲストのセッションによるインパクトが大きかった

*3:官邸にあるやつが読みにくいので、総務省にあるやつにしてます。官邸のものが中身も微妙に違う(古い)気もするので

*4:https://www.google.com/search?q=Basic%20Act%20on%20the%20Formation%20of%20an%20Advanced%20Information%20and%20Telecommunications%20Network%20Society

(メモ)令和初のHTML Working Groupが始動した

HTMLについて*1高度な政治的レベルでWHATWG HTMLに一本化されるという、今年4月のエントリーで書いてあることがほぼそのままスライドして本決まりになったわけですけれども、そのときにはHTML Working Groupを立ち上げ予定となっていました。そのWorking Groupについて、今月の6日付けでHTML Working Group Charterが承認されたみたいで、あわせてHTML Working Groupのウェブページもできあがっているみたいです。ページにミッションとして

The mission of the HTML Working Group is to give input to and bring the WHATWG HTML and DOM Review Drafts to W3C Recommendations.

とあって、まあとてもシンプルですね、はい。

さて、一本化されるのはわかったけれども、じゃあ技術的にどうなのか?というところは気になるわけで。両者の違いはパッと思いつく限りで

W3C HTML 5.2 WHATWG HTML
hgroup要素 一切の言及なし(廃止されたHTML 5.0では廃止と明言) あり
アウトラインアルゴリズムへの警告 あり なし
「画像代替テキスト要件」*2のセクション数 23 15
img要素のlongdesc属性 矛盾した記述(§4.7.5§11.2 廃止(適合しない)
rb要素、rtc要素 あり 廃止(適合しない)
HTMLAppletElementインターフェイス あり(警告付きで) なし(削除済み)

というような違いがあるわけで(他にも何かあったかもしれないけれども、大きく「あるかないか」レベルだとこんな感じのはず)。WHATWG HTMLを鵜呑みにすればよい箇所もあるだろうし、W3C HTMLが取り込まれた方がいいだろう箇所もあるだろうし、もはや何とも言えないというところもあるだろうし…と、(ここでは書き漏らしているだろう細かい差異もひっくるめると、)一口では語りきれないものがあるのかな…と。どういうふうにW3C側が舵取りするつもりなのかはわかりませんけれども、これからの議論を注視していく必要はありそうです。

ちなみに、HTML Working GroupのChairsとしては、Theresa O'Connor (Apple, Inc.)とLéonie Watson (TetraLogical)が務めるとのこと。TheresaはHTML 5.0の時のEditorとして名を連ねていました。Léonieは旧Web Platform Working Groupのco-chairsに引き続きといったところでしょうか。というか、LéonieはTPGやめてたんですね…。

*1:まあ、DOMもそうなんですけれども、このエントリーではHTMLのみを扱うことにします。そもそもDOMを語れる知識なんて持ち合わせていないので。

*2:WHATWG HTML訳で言うところの4.8.4.4 画像に対して代替として動作するテキストを提供に対する要件のこと