世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画とウェブアクセシビリティ

昨日のエントリーでも触れた、今月14日に閣議決定され変更された世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画について、ウェブアクセシビリティに直接言及している箇所のあるので、「アクセシビリティ」でまずは検索して拾い上げましたという話。

第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言
V. 社会基盤の整備
5 デジタル格差対策
(3) 障害当事者参加型技術開発の推進
障害者にとり、情報の受信・収集から発信に至るまでのコミュケーションについて、ICT機器の利用により制約を低減させることが可能となる。
障害者等の状況にきめ細やかに対応可能なICT機器・サービスの開発に当たっては、開発計画段階から個々のニーズに応えていく必要があることから障害者関連団体や公益法人などの既存の団体の取組と連携し、障害者向けICT機器・サービスの開発に資する情報の収集・共有のための関連情報のデータベースの構築や、収集した情報を活用した各種マッチング機能等の整備を内容とする、障害関連情報共有プラットフォームの整備を行う。
また、ICT機器・サービスに対する情報アクセシビリティ基準適合に関する自己評価の仕組みを導入し、政府調達におけるアクセシビリティ確保の促進に取り組む。

第2部 官民データ活用推進基本計画
II. 施策集
II-(6)利用の機会等の格差の是正【官民データ基本法第 14 条関係】

○[No.6-5] 情報アクセシビリティ確保のための環境整備
・ IoTやAIの社会実装が進むためには、ICT機器・サービスのアクセシビリティの確保が必要となる。米やEUでは、法律によりICT機器・サービスのアクセシビリティ基準を規定し、それを企業が自己評価する仕組みが提供されている。
・ このため、米・EUの基準に加え、各業界団体が独自に規定したアクセシビリティ基準を基礎に、我が国において各企業が自己評価するための様式や公表の仕組みを策定する。あわせて、政府情報システムの調達時にも活用する方策を検討。
・ これにより、企業によるアクセシビリティ基準に関する情報公開が進むことで、基準を満たすICT機器・サービスの展開を促進。
KPI(進捗):仕組みの構築・導入に向けた検討状況
KPI(効果):自己評価を行うICT機器・サービスの数

○[No.6-6] Webアクセシビリティ確保のための環境整備等
・ 高齢者や障害者など、ICTの恩恵を十分に享受できていない者が多く存在。
・ 誰もが行政等のWebサイトを利用しやすいようにするため、平成29年度の調査結果を踏まえ更なる公的機関Webサイトのアクセシビリティ状況改善に向けた取組を促進。また、高齢者や障害者等に配慮した事業者による通信・放送サービスの充実を図るため、平成29年度から令和3年度までにかけて事業者等への助成を行い、進捗状況を確認。
・ これにより、デジタルデバイドを解消し、誰もがICTの恩恵を享受できる情報バリアフリー環境を実現。
KPI(進捗):サービス及び研究開発に対する助成件数
JIS規格準拠に係る各公的機関への説明会回数(令和元年3件)
KPI(効果):民間事業者向け「身体障害者向け通信・放送役務の提供・開発等の推進」助成終了後2年経過時の事業継続率(令和2年70%)
ホームページのJIS X 8341-3への準拠を表明している地方公共団体(令和3年77%)

とまあ、こんな感じです。6-5で言及されている環境整備は、山田先生が半歩前進した、政府調達での情報アクセシビリティ対応で書かれている日本版VPATという流れと理解して良さそうですね。
それに対して、6-6でいう、ウェブアクセシビリティの助成は総務省|情報バリアフリー環境の整備|研究開発等への支援でしょうか。これであっているなら、むしろ6-5にカウントされるべきなんじゃあ、という気もして、ちょっと謎だなと。JIS規格準拠に係る各公的機関への説明会は平成30年度「公的機関のウェブアクセシビリティ確保への取組に関する調査等」と同じようなことも今年度もやる、ということなのでしょう。


あとはまあ、「インクルーシブ」という単語にも言及があって、

第1部 世界最先端デジタル国家創造宣言
I. 基本的考え方:我が国の社会課題とデジタル技術
1 Society 5.0時代にふさわしいデジタル化の条件
(5) 人にやさしい、デジタル化
デジタル化は、安心・安全・豊かさの手段で、取り残される人があってはならない14。デジタル技術は、新ビジネス創出と経済活動の活性化につながるが、それだけではない。デジタル技術を前提とする就業形態やその活用支援制度で、社会参画の機会を豊富なものとしていく。さらに、活力のある社会に向け、デジタル・インクルーシブな環境を能動的に作り出す。

14 WORLD ECONOMIC FORUM「Our Shared Digital Future Building an Inclusive, Trustworthy and Sustainable Digital Society」(December 2018)の中でも、デジタル化について、「Leave No Person Behind(誰一人取り残さない)」をゴールの一つとして掲げている。

という感じです。追加の法律がなければ、官民データ基本法の引用が次の『みんなの公共サイト運用ガイドライン』にペロッと乗るだけということになるんでしょうか。
簡単ですけど、こんな感じで。

みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)で参照する法律の謎

あんまりまとまってない…というか書いてはみたものの、致命的な勘違いがあるかもしれないので、鵜呑みにしないでください。

前置きがタイトルからはちょっとずれるのですけれども、筆者が参加したもっとも直近のウェブ関連イベントでは、神戸のアクセシビリティの祭典なんかでの木達さんと持田さんの対談で、アクセシビリティの法律の強化が必要だよね、みたいな話が出ました*1

まあ、このときは懐疑的なツイートをTwitterでしてた気もするんですけれども*2、最近いろいろあって気が変わりまして、ウェブアクセシビリティの日本におけるステージを強引にでも引き上げるには、法律で強制するしかなかろうという宗旨替えをするようになり。

でまあ、よりウェブなアクセシビリティを強力に推進するような新しい法律を、もし作るという話になるにしても、現状の法律を知らないと…ということであれこれ調べてたところ、よく分からない現象に遭遇しました…と。


ところで、政府には高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)というものが存在しまして、筆者もあんまり詳しくないんですけれども、このページにIT関連法律リンク集からいろいろな法律にリンクしています。一番上の辿れますけれども、高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(IT基本法、2001年施行)を読んでみますと*3

(定義)
第二条 この法律において「高度情報通信ネットワーク社会」とは、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会をいう。

(利用の機会等の格差の是正)
第八条 高度情報通信ネットワーク社会の形成に当たっては、地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく情報通信技術の利用の機会又は活用のための能力における格差が、高度情報通信ネットワーク社会の円滑かつ一体的な形成を著しく阻害するおそれがあることにかんがみ、その是正が積極的に図られなければならない。

いやなんでしょう、IT基本法第8条とウェブなアクセシビリティって直接的に関係するんじゃないですかね…?とふと思ったりしたんですが、どうでしょうか。ちなみにW3C/WAIのWeb Accessibility Laws & Policiesには、"Basic Act on the Formation of an Advanced Information and Telecommunications Network Society"とありまして、これは高度情報通信ネットワーク社会形成基本法の英訳*4ですから、筆者の勘違いではないでしょう、たぶん。

あとまあ、IT総合戦略本部のページで執筆時点で一番上にある「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定されました。(PDF)を開くとずらずらーといっぱいあって、アクセシビリティで検索すると実はいくつかヒットするのですが(これは脇道にそれてしまうので、もし書くとすれば別なエントリーに譲ることにします)、[No.6-6] Webアクセシビリティ確保のための環境整備等というのが、官民データ活用推進基本法(官民データ基本法、2016年12月施行)第14条関係ということで書かれています。

(目的)
第一条 この法律は、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて流通する多様かつ大量の情報を適正かつ効果的に活用することにより、急速な少子高齢化の進展への対応等の我が国が直面する課題の解決に資する環境をより一層整備することが重要であることに鑑み、官民データの適正かつ効果的な活用(以下「官民データ活用」という。)の推進に関し、基本理念を定め、国、地方公共団体及び事業者の責務を明らかにし、並びに官民データ活用推進基本計画の策定その他官民データ活用の推進に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、官民データ活用推進戦略会議を設置することにより、官民データ活用の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって国民が安全で安心して暮らせる社会及び快適な生活環境の実現に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「官民データ」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録をいう。第十三条第二項において同じ。)に記録された情報(国の安全を損ない、公の秩序の維持を妨げ、又は公衆の安全の保護に支障を来すことになるおそれがあるものを除く。)であって、国若しくは地方公共団体又は独立行政法人独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。第二十六条第一項において同じ。)若しくはその他の事業者により、その事務又は事業の遂行に当たり、管理され、利用され、又は提供されるものをいう。

(利用の機会等の格差の是正)
第十四条 国は、地理的な制約、年齢、身体的な条件その他の要因に基づく情報通信技術の利用の機会又は活用のための能力における格差の是正を図るため、官民データ活用を通じたサービスの開発及び提供並びに技術の開発及び普及の促進その他の必要な措置を講ずるものとする。

とまあ、IT基本法と似たような文言が書かれており。これがウェブアクセシビリティと関係することになっている、ことになります。まあ、法律の謳うところの官民データがあくまでデータそのものにフォーカスしていると思われるので、ウェブのデータが含まれるのかというと、理念的には含まれていない…と思います。


翻って、ウェブアクセシビリティと法律という文脈でもっとも引き合いに出されるのが障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法、2018年4月施行)で、概要は1.情報アクセシビリティの法律上の位置づけ:障害者施策 - 内閣府に書いてあるとおりかなと。まあ、具体的には総務省にあるみんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)(2016年4月公開)のとおりなんですけれども、ここで「障害者差別解消法により対応が求められています」と。ここにはIT基本法の文言は一切出てきません。なお、引用されている障害者差別解消法の条文はこんな感じです。

(社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮に関する環境の整備)
第五条 行政機関等及び事業者は、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配慮を的確に行うため、自ら設置する施設の構造の改善及び設備の整備、関係職員に対する研修その他の必要な環境の整備に努めなければならない。

(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止)
第七条 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

公開の後から施行された官民データ基本法が、みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)から参照できないのは当然ですが、それよりも遙か以前からあったはずのIT基本法が参照されないのはなぜなんでしょうか?教えて偉い人。

*1:アクセシビリティの祭典 2019に参加 #accfes | 覚え書き | @kazuhito にもそういうことが書いてある

*2:JAC Vol.1の韓国からのゲストのセッションによるインパクトが大きかった

*3:官邸にあるやつが読みにくいので、総務省にあるやつにしてます。官邸のものが中身も微妙に違う(古い)気もするので

*4:https://www.google.com/search?q=Basic%20Act%20on%20the%20Formation%20of%20an%20Advanced%20Information%20and%20Telecommunications%20Network%20Society