CSUN 2022レポートの読後メモ的な

関根さんの2022年度CSUNレポート | 株式会社ユーディット(情報のユニバーサルデザイン研究所)をざっくりと読んだので自分用メモを。


3月13日 USに到着

アコモデーションとは、本来、このような好みやニーズに合わせた適切な環境の整備や提供を指す言葉だ。日本で「Reasonable Accommodation」を「合理的配慮」と、まるで障害者への恩恵のように訳したのは、なんだか残念な誤訳に思える。明らかに、その人に合わせた「適切な調整」だと思うのだが。他にも残念な例は多い。障害者権利条約の第9条「アクセシビリティ」を、「利用のし易さ」と外務省が意図的に誤訳?して、まるでユーザビリティみたいに変化させてしまい、その後、どんどん国連からアクセシビリティに関する追加修正が出たものの、対応できなくなっている日本の状況を思い出す。ユニバーサルデザインを構成する二つの概念のうち「アクセシビリティ」は「使えるかどうか」で、「ユーザビリティ」は「使いやすいかどうか」である。ともにISOでも明確に定義された概念規定なのに、どうして第9条はこうなってしまったのだろう。

合理的配慮については、条約の第2条にあって正文と外務省訳はこんな感じになっていて、言葉自体がしっくりこないのは前から感じてて、改めていわれてみれば首をかしげたくなりますよね。

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000900.html#section3

“Reasonable accommodation” means necessary and appropriate modification and adjustments not imposing a disproportionate or undue burden, where needed in a particular case, to ensure to persons with disabilities the enjoyment or exercise on an equal basis with others of all human rights and fundamental freedoms;

https://www.mofa.go.jp/mofaj/fp/hr_ha/page22_000899.html#section3

「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。

アクセシビリティを利用しやすさのように言い換えているのは、国立国語研究所「外来語」言い換え提案が先じゃないかしら。アクセシビリティー。まあどうなのよ的なものは。

「国連から」のくだりは、我が国が2014年に条約を批准して5年経ったときに提出された、第1回政府報告の前後の話だろうか。

ISOでは、というのはISO/IEC Guide 71:2001/JIS Z 8071:2003(当時。現在はISO/IEC Guide 71:2014/JIS Z 8071:2017)のことかな、とは思うけれども。まあ技術的な言葉が法令に入らない風潮とかあったりする(?)のかしら(「乙4」でおなじみの?危険物方面はめちゃくちゃ技術よりだと思ってますけど)。


3月15日 セッション始まる キーノート NASA IBM アイボ

まずNASAのセッションに行った。元気なお姉さんBetsy Sirkは、NASAのITマネジャーで、アクセシビリティの専門家だ。連邦政府のCIOカウンシルには、アクセシビリティのチームがあり、彼女はそのリーダーを長く務めているそうだ。公的機関は、アクセシブルなICT機器やソフト、アプリ以外は、購入してはならない。これは最初86年に制定され、何度も改正されてきた米国リハビリテーション法508条の基本原則である。これを守れないIT企業は、入札にすら参加できない。そのために、省庁側がIT企業を教育するのである!入札してくる企業に対し、リハ法508条の内容を伝え、UD調達を円滑に進める役割である。かつてはDOD(防衛省)やDOJ(法務省)が、このようなセッションを定期的に開催しており、その報告をCSUNで聞くことが多かったのだが、NASAの彼女たちも息の長い活動をしているのだ。

果たして我が国で省庁が企業を教導(?)できる体制にあるのかというとそこはかとなく謎ですわね…デジタル庁にそういうことを担ってほしさはあるけれども、手が回ってないっぽいので。

大統領令も何度か出され、政府の公共調達をUDのみにするという方針は、欧米では当たり前、前提となっている。EUには508条と同様のEAA(European Accessibility Act)があり、各国はそれに合わせて国内法の制定が求められる。今回のNASAの発表でも、この連邦政府のチームは、何がUDかを企業に指導し、調達基準書の書き方まで教えてくれていた。企業は当然ながら買ってもらえるよう、全ての製品をUDでしか作らなくなり、それは高齢社会のITインフラ自体をUDにすることに大きく貢献するのである。実に賢い方法だと思うのだが、日本にはこの法律は影も形もない。

デジタル活用共生社会実現会議の流れで引き続き、厚労省総務省は取り組んでいるようで、2021年8月から9月にかけて、石川先生、山田先生、浅川氏、松森氏を招いて障害者にやさしいICT機器等の普及に関する勉強会|厚生労働省というものを行っていたようで(このメモをまとめててはじめて気づいた)。

そういう流れを汲んで、筆者からすると(CSUNの後に)突如として出てきた今年4月の「情報アクセシビリティー・コミュニケーション保障法案」につながっているのではなかろうか…と(「情報アクセシビリティー・コミュニケーション保障法案」参院厚生委編)。


3月16日 デジタルアクセシビリティ ハーバード大学 MacのKIOSK SONY

ハーバード大学が、ADA法違反で訴えられたのは、業界では有名なことだ。

恥ずかしながら知らなかったわけですが、あらましとしてはThe Significance of Harvard’s Settlement on Video Accessibility | National Deaf Centerがまとまっている感じかしら。


3月17日 デジタルアクセシビリティ 法律 盲ろう メディア XR

Covid19の情報を出すWebサイトはもちろんだが、医療などの分野も公共情報として、アクセシビリティが必須なのだ。海外ではKIOSKと一般化して呼ばれるが、今回、このKIOSK系のUDに関する発表がとても増えているのが目立つ。薬局や病院、書店や飲食店の情報端末も、すべて508条の対象だ。アクセシビリティは必須なのである。

いろんなところのアクセシビリティというのはキーポイントになりそうですわね。

またこの日は、メンタルの障害当事者が自ら語るセッションもあった。会場は満杯だった。彼は発達障害精神障害を併せ持つエンジニアだ。ただ、日本の障害ジャンルはむしろ世界の中では特殊なので、この言い方はここでは正しくないかもしれない。彼はUXの専門家で、WCAGの中のCOGAと言われるタスクフォースのメンバーである。COGAとは、Cognitive and Learning Disabilities Accessibilityの略で、認知・学習障害アクセシビリティに関する研究チームだ。このジャンルのデジタルアクセシビリティは欧米でもまだ始まったばかり

ジャンルが特殊、というのは筆者は詳しいことを知らないので、そういうものなのかしらね…。ただ、さくっとW3C Coga TFの出しているCognitive Accessibility User Researchを以前に斜め読みした身としては、ICD-10あたりとのマッピング(それは障害の医学モデルであって社会モデルではなかろう、という怒られがありそうだけれども、とはいえ医学的知識はある程度必要でしょう?という認識)は必要だよなあ、とは。

また、IBMとPEAT、アクセンチュアなどが働く場所のXRについて発表したセッションも面白かった。XRとはVRVirtual Reality)、AR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)の総称だ。

XRのアクセシビリティについては、W3C APA WGXR Accessibility User Requirementsなるものを出しており、そこから必要とされるだろうものがいろいろと書いてある(リサーチ段階だと思っている)。斜め読みした感じでは、概ねWCAG 2の延長ではなかろうかというイメージで、XRという新しいジャンルではあるけれども、まったく違った観点からの取り組みにはならないという理解。


3月18日 メディアと障害者 ADA 米国司法省の取組

いろいろな刺激になる内容なのだけれども、

CSUNに来て毎回感じるこのフラストレーションは、技術はあるのに環境を変えようとしない、日本全体の制度設計の不備に対するものである。

という我が国の制度設計の不備というのは、少なくとも情報分野のアクセシビリティに関しては筆者も強く感じているところで、WCAG2視点で1つの技術体系だろうものが、バラバラに動いているようにしか見えないところではあり。少なくとも、ウェブと、電子書籍や字幕放送がWCAGから見れば同じ体系にあるものだよね、というのが果たして我が国の行政側に見えているのか…。


CSUN2022の総括 デジタルアクセシビリティ リーダーシップ メンタル系 DX

確かに欧米と比較して、いろいろと足りないものはあると思うのだけれども、ひるがえって海の向こうのウェブアクセシビリティがちゃんとやれているのかというと、

あたりを見るにつけ、自動テストでボコボコに引っかかるので安心して欲しい(いや安心しちゃいけないんだけども)。持続的に取り組んでいくことが肝要だと思うので、海外に追いつけ追い越せというのも必要な一方で、足元でやれることをやっていくというのも当然必要になってくると。

なんにせよ、トップダウン的な動きと、ボトムアップ的な動きの両方がないとウェブアクセシビリティは進まないわけで。目下の我が国のトップダウン的な動きは流石に読後メモから大きく離れるので別にまとめよ…。