障害者の権利委員会 一般的意見第2号を読む

一般的意見第2号(2014年) 第9条:アクセシビリティ 2014年4月11日採択として、DINFにある翻訳を読んでみました…という話。

なお、国連広報センター訳によれば、Committee on the Rights of Persons with Disabilities(CRPD)を障害者の権利委員会と訳しているので、ここではそれに従いました。障害者の権利委員会の全部のGeneral Commentはここから見ることができ、一般的意見第2号については、CRPD/C/GC/2として原文も見ることができます。

一般的意見の位置づけですが、「国連・子どもの権利委員会」の一般的意見の説明として次のような日本語の説明を見つけました。障害者の権利委員会の一般的意見についても、これに近しい立場にあると考えられます(もっとふさわしい文献があったら是非教えてください)。

「一般的意見」(General Comments)とは:

「条約のさらなる実施を促進し、かつ締約国による報告義務の履行を援助するために」(子どもの権利委員会暫定手続規則73条)作成される文書。他の人権条約機関も一般的意見または一般的勧告と呼ばれる同様の文書を採択してきており、それらは主に以下の2つの機能を果たすとされる(Alston, P., et. al., International Human Rights in Context, Clarendon Press, Oxford, 1996, pp.522-535)。

(1) 特定の条項について締約国報告書に記載されるべき情報を具体的に挙げること
(2) 特定の条項の意義や機能、その実施のために必要とされる措置等について条約機構としての正式な解釈を示すこと

一般的意見は、締約国の選挙によって選ばれた委員で構成される条約機関が、多数の締約国報告書を審査してきた経験にもとづいて採択した正式な文書であり、国際人権法の発展の重要な要素を構成するものである。そこに示された見解は、厳密な意味での法的拘束力こそ有しないものの、条約の規定に関するひとつの権威ある解釈として、締約国の政府や裁判所等によって正当に尊重されなければならない。日本の裁判所においても、少数ではあるものの、自由権規約による一般的意見が「〔自由権規約の〕解釈の補足的手段」として用いられた例がある(外国人登録法にもとづく指紋押捺の拒否を理由とした逮捕に対する国家賠償請求事件に関する1994年10月28日の大阪高裁判決〔判例タイムズ868号59頁・判例時報1513号71頁〕)。

http://childrights.world.coocan.jp/crccommittee/generalcomment/index.htm

とまあ、拘束力こそないものの、権威のある文書という位置づけのようです。

かなり多岐にわたり、まあ通読した方がいいんじゃないかと言うぐらいの勢いなのですが、特に気になった箇所をⅠ~Ⅳからだいたい1つずつ抜き出して、特に筆者が着目した記述についてマークをしてみました。

Ⅰ.序論
1.アクセシビリティは、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加するための前提条件である。物理的環境、輸送機関、情報通信(情報通信機器及び情報通信システムを含む。)、並びに公衆に開かれ又は提供される他の施設及びサービスへのアクセスがなければ、障害のある人が、それぞれの社会に参加する平等な機会を持つことはない。アクセシビリティが障害者権利条約の拠りどころとされる原則の1つであること(第3条(f))は、偶然ではない。歴史的には、障害者運動において、物理的環境と公共輸送機関への障害のある人のアクセスは、世界人権宣言第13条と、市民的及び政治的権利に関する国際規約第12条で保障されている、移動の自由の前提条件であると主張されてきた。同様に、情報通信へのアクセスは、世界人権宣言第19条と、市民的及び政治的権利に関する国際規約第19条第2項で保障されている、意見と表現の自由の前提条件であると考えられている。

Ⅱ.規範的内容
14.条約第9条では、障害のある人が自立して生活し、社会に完全かつ平等に参加し、そのすべての人権と基本的自由を、他の者との平等を基礎として、制限されることなく享有するための前提条件としてのアクセシビリティを、明確に謳っている。第9条は、市民的及び政治的権利に関する国際規約の、公務への平等なアクセスの権利に関する第25条(c)と、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約の、一般公衆の使用を目的とするあらゆる場所又はサービスを利用する権利に関する第5条(f)など、既存の人権に根差している。これらの2つの中核となる人権条約が採択されたとき、世界を劇的に変えたインターネットはまだ存在していなかった。障害者権利条約は、この点において、ICTへのアクセスに取り組む21世紀初の人権条約であり、障害のある人のみを対象とした新たな権利を創造するものではない。さらに、国際法における平等の概念は、過去数十年間で変化してきた。形式的な平等から実質的な平等への概念の移行は、締約国の義務に影響を与えている。アクセシビリティ提供の義務は、平等な権利を尊重し、保護し、達成するというこの新たな義務の、不可欠な部分である。それゆえ、アクセシビリティは、アクセス権に照らして、障害という特別な視点から検討されるべきである。障害のある人のアクセス権は、アクセシビリティ基準の厳格な実施を通じて確保される。完全なアクセシビリティの達成を目的として、公衆を対象とし又はこれに開かれた既存の事物、施設、物品、サービスにおける障壁は、組織的に、さらに重要なことには、継続的な監視の下で、漸進的に撤廃されなければならない。

16.インターネットと情報通信技術(ICT)への対応を後から行うことは費用の増加を招く可能性があるため、ICTを含む情報通信のアクセシビリティも、最初の段階で達成されるべきである。このように、ICTのアクセシビリティ機能を義務付け、設計、製造及び建設の最も早い段階から盛り込む方が経済的である。ユニバーサルデザインの適用は、障害のある人だけでなく、すべての人にとって、社会をアクセシブルにする。(以下略)

Ⅲ.締約国の義務
28.締約国は、国内のアクセシビリティ基準を採択し、公表し、監視する義務がある。関連法がない場合、適切な法的枠組みの採用が第一段階となる。締約国は、法律とその実施との格差を明らかにし、監視し、これに取り組むために、アクセシビリティ関連法の包括的な見直しを行わなければならない。多くの場合、障害関連法では、アクセシビリティの定義にICTが含まれておらず、調達、雇用及び教育などの分野における非差別的なアクセスに関する障害者権利法では、ICTと、ICTを通じて提供される、現代社会の中心となっている多数の物品とサービスへのアクセスが含まれていない。このような法律と規則の見直しと採択は、障害のある人とその代表団体(第4条第3項)及び学界人、建築家専門団体、都市計画者、技術者及びデザイナーなどの、他のすべての関係者との緊密な協議の上、実施することが重要である。条約で義務付けられているように(第4条第1項(f))、法令にはユニバーサルデザインの原則を盛り込み、これを基本とする。そして、アクセシビリティ基準の強制的な適用と、適用しない者に対する罰金を含む制裁措置を規定しなければならない。

IV.他の条文との相互関係
38.第9条と第21条には、情報通信の問題に関して共通する部分が認められる。第21条では、締約国は「障害のある人が、他の者との平等を基礎として、あらゆる形態のコミュニケーションであって自ら選択するものにより、表現及び意見の自由(情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。)についての権利を行使することができることを確保するためのすべての適切な措置をとる」と規定している。また、情報通信のアクセシビリティを実践でどのように確保できるかを、続けて詳しく説明している。そして、「障害のある人に対し、様々な種類の障害に適応したアクセシブルな様式及び技術により、一般公衆向けの情報を提供すること」を締約国に義務付けている(第21条(a))。さらに、「障害のある人が、その公的な活動において、手話、点字、拡大代替コミュニケーション並びに自ら選択する他のすべてのアクセシブルなコミュニケーションの手段、形態及び様式を用いることを容易にすること」も規定している(第21条(b))。一般公衆にサービス(インターネットによるものを含む。)を提供する民間主体は、情報及びサービスを障害のある人にとってアクセシブルかつ使用可能な様式で提供するよう促され(第21条(c))、大衆媒体(インターネットで情報を提供する主体を含む。)は、そのサービスを障害のある人にとってアクセシブルなものとするよう奨励される(第21条(d))。第21条は、また、条約第24条、第27条、第29条及び第30条に従い、手話の使用を認め、促進することを、締約国に義務付けている。

特に注目したいのはⅢの28でしょうか。本気で我が国のウェブアクセシビリティの法律を強化したいと考えるのならば、障害当事者団体、学術界、産業界の三者が、連携しつつそれぞれの立場で声を上げ、行政府や立法府に働きかける必要があるということでしょう。