国交省ハザードマップ検討会のWebアクセシビリティの認識が詰んでいる

ツッコミが追いつかないというのは、こういうことを指すの…?

ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会 - 国土交通省水管理・国土保全局

障害等に対応する一人ひとりのニーズに応じた水害リスク情報提供のあり方を検討する有識者会議を開催します! ~ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会(第1回)の開催~ - 国土交通省

ハザードマップは、主に地図上に水害リスクに関する情報を示すものですが、視覚等に障害を有する場合は紙面等の情報を取得することが困難であること、また、自身のリスクが把握しづらく、避難行動に役立ちにくいという意見もあることから、一人ひとりの環境やニーズに合ったリスク情報提供のあり方を整理するため、「ハザードマップユニバーサルデザインに関する検討会」を設置し、令和3年12月23日(木)に第1回検討会を開催します。

という趣旨らしいです。これまで検討会は4回開催されており、直近では先月の11月末に開催されたとあります。パラパラと資料を見ていくかぎりでは、ユニバーサルデザインとしてかなり多方面にわたって話をしているように見えるものの、どうにも雲行きが怪しいな。と。

第4回で示された【資料4】_本検討会報告の骨子案についてなんかを見ていきますと、

第1章 「わかる・伝わる」ハザードマップのあり方について
ハザードマップは、障害のある方達にも等しく提供されることを基本。
・印刷物や ICT を活用した情報提供は、全ての障害のある人達がアクセスできること
が必要。

単なる紙版ですと、天地がひっくり返っても視覚障害者の一部の人にとっては、まったくアクセスできないわけですが…。もちろん点字版があれば、点字が読める人には伝わるでしょうけれども、点字で伝えられる情報は、視覚的に地図を見て得られる情報に比べると、限定的になってしまう問題はついて回るわけで。

地図というメディア自体が情報としてもの凄く圧縮されているわけですよね。仮に、単に現在地から目的地までをGoogleマップに検索させて、経路案内を全部読み上げさせたとすると、それだけでもう膨大な情報になるわけで。

地図情報から、何を読み取ればよいのか、障害にかかわらず読み取ることそのものが難しいと思うわけですけれども、この検討会は果たしてどこまで咀嚼できているのかが微妙と。

そもそもとしてハザードマップで伝えるべき情報を選定しきれていないと思っており、肝心要のマップから読み取る情報を決めなければ、いくらガワをWebアクセシビリティの規格に沿った作りにしたところで、スクリーンリーダーのユーザーにはもちろん一般のユーザーにも伝わらないでしょうね…というのが根本的なところの感想です。

まあ、そのガワとなるWebアクセシビリティの認識も怪しいのですが。

〇WEB アクセシビリティについて
アクセシビリティについて。
・あらゆる主体が水防災を理解できる場や水害を疑似体験・体感できる事例を紹介。
【東京都盲人福祉協会の事例】
広島県立広島中央特別支援学校の事例】
ハザードマップの情報は、命に関わる内容であり、ウェブアクセシビリティ対応は重 要。
・障害の種類や年齢、個々人の属性に合わせて情報をカスタマイズできることが重要。
・あらゆる主体がウェブサイトの情報をより理解できるよう工夫している事例を紹介。
【公益財団法人広島市障害者福祉協会ホームページ】
京都市ホームページ】
江戸川区ホームページ「区役所へのアクセス」の事例】
京都大学 学生総合支援機構 障害学生支援部門ホームページ】

「あらゆる主体が水防災を理解できる場や水害を疑似体験・体感できる事例を紹介。」というのは、第4回の【資料2-1】_WEBアクセシビリティへの対応についてにあるスライド8にあります。読む限りではまるでウェブと関係ない。ウェブという話を抜きにしても、スライドを見るだけでは、アクセシビリティと結びつくのかどうかも怪しい。「誰でも」疑似体験できることを強調したいのでしょうか? というか、災害は年齢や障害の有無というような人間の属性に関係なく平等に襲ってくるわけで、災害の事象自体は直接アクセシビリティ関係なくないですか。

まあ、他にもこの第4回の資料でしたり、第3回の【資料5】Webアクセシビリティへの対応についてあたりをまとめたのが骨子案でしょうけど、スライド3には次のような文言があります。

WEBアクセシビリティの品質を確保する際の拠り所として、JIS X 8341-3があり大きく4 つに区分されている。

1. 『知覚可能』 :ユーザーが自分の感覚の1つ以上を使用して何らかの方法でそれを知覚できなければならない
(例えば)
• 音声読み上げを行った際に正しく認知できるような配慮 など
(「リンク先はこちら」では、視覚障害者には伝わらない)

2. 『操作可能』 :容易に操作できなければならない
(例えば)
• 障害者は、マウスを使用できないことも多いため、キーボードだけでも操作ができるような対応 など

3. 『理解可能』 :情報内容や操作画面などが容易に理解可能でなければならない (例えば)
• 情報内容が容易に理解できるようにやさしい日本語による対応 など

4. 『堅ろう(堅牢)』 :技術の進歩に応じてコンテンツにアクセスできなければならない
(例えば)
• パソコンやスマートフォンなど様々なデバイスでレイアウトが崩れないような対応 など

まずもって、1.『知覚可能』に例示された「リンク先はこちら」でおなじみ?のリンクの目的 (コンテキスト内)は達成基準2.4.4なので、ここにカテゴライズされるのがおかしい。

3. 『理解可能』で例示されたやさしい日本語は、ガイドライン 3.1にぶら下がっている達成基準を当てはめていると主張するものだと思いますけれども、WCAGとしてそういう意図ではない、というように筆者は認識しています。(しかし、それはそれとして、防災や災害対応で「やさしい日本語」が日本語ネイティヴではない主に外国の方にとって有用であることは疑いようはなく、これを否定するものではないということは明言しておきます。)

4. 『堅ろう(堅牢)』で例示される、「パソコンやスマートフォンなど様々なデバイスでレイアウトが崩れないような対応」は、達成基準 1.4.10リフローなどが当てはまると思いますので、これはこれでおかしなことになっている。

結局のところ、2. 『操作可能』しか正しい例示ができておらず、WCAGの理解が根本的におかしいので、まったく信用できませんね。もっとも、委員の方々は主に防災の専門家であって、ウェブアクセシビリティの専門家ではないですから、致し方ない面はあるとはいえ、これではね…。

さて、『本検討会報告の骨子案』に戻って。

〇標準化の流れについて
・ウェブアクセシビリティの品質確保のためのガイドラインは、多種多様。
・2016 年 3 月には、WCAG 2.0、ISO/IEC 40500:2012、JIS X 8341-3:2016 の 3 つが全 て技術的に同じ内容となる。(W3C の勧告、国際規格の ISO、国内規格の JIS が完全に統一)
・参考となる基準やガイドライン
【ウェブアクセシビリティ方針策定ガイドライン
【JIS X 8341-3:2016 対応発注ガイドライン
【JIS X 8341-3:2016 試験実施ガイドライン

みんなの公共サイト運用ガイドラインの文字列がないことに怒っていいと思うんですよ。

ハザードマップの性質上、国や地方公共団体が提供するものだと思っているのですけど、ここでみんなの公共サイト運用ガイドラインに触れていないというのはどういうことなのでしょうか。WCAGやJISの話、どこぞのウェブアクセシビリティ方針策定ガイドラインやらの話があって、なぜみんなの公共サイト運用ガイドラインに触れていないのか、「運用」とタイトルに入ってないからいけないのか?

もっとも、第4回の検討会が行われたのが今年11月末なので、12月になって公開されたデジタル庁のウェブアクセシビリティ導入ガイドブックが間に合わなかったのは致し方ところではあります。今からガイドブックを参照してもらうなりして、しっかりとしたWebアクセシビリティの知識を織り込んだ上で、ユニバーサルデザインの観点(?)での報告書にしてもらうのを心より願っています。


しかし、ICTの利活用に関わる場にもかかわらず、デジタル庁がオブザーバーに入っていないのはそういうものなんですかね?(委員名簿を見てもらえばわかります)

現に誤ったWCAGの理解のもとでWebアクセシビリティという言葉だけが一人歩きする大変困ったことが起きているわけで、このままですと今後も同様の事態が起きることになることは容易に予想され、本質的にアクセシブルではない悲しいWebサイトが量産されていく未来が視えます。

こういう悲しいことが起きないようにするための、各省庁を横断するような情報アクセシビリティの司令塔がデジタル庁だと思っているのですが、残念ながら機能しておらず、システム作りが急務といえるでしょう…。