令和4年3月付けの報告書が興味深いと思うんですよ。
総務省|近畿管区行政評価局|ホームページによる行政情報の提供状況に関する調査 https://www.soumu.go.jp/kanku/kinki/r03_1_report.html
技術的に細かいところはいろいろとありますが、この報告書をつくるに至るまでの取り組み自体は評価したいというのもありますし、(積極的に取り組むべしとされている)行政がどういう体制でどの程度のレベル感なのかを探ることができる、貴重な文書なんじゃないかなと。
いろいろと見所はあると思うんですけど、目に付いた箇所をざざっとメモ書きで。
表3-(1)-① JIS X8341-3 の主な達成基準と達成基準の具体的メリットの脚注には
(注)1 JIS X8341-3及び「WCAG※1 2.0解説書」(World Wide Web Consortium(以下「W3C」という ※2)作成、ウェブアクセシビリティ基盤委員会による日本語訳(https://waic.jp/docs/UNDERSTANDING-WCAG20/Overview.html))を基に当局で作成した。
とあり、実際この表にはそれなりの正確性があると思ってて、報告書を書いた中の人はある程度詳しい、というかわかっているという印象。個人的には好感度が爆上がり。
さらに、運用ガイドラインでは、国の機関等が管理運営するホームページにおいてウェブアクセシビリティへの対応が求められる背景や、JIS X 8341-3に基づいて実施すべき取組項目(ウェブアクセシビリティに関する内容を含む職員研修(以下「アクセシビリティ研修」という。)を含む、項目1(1)ウ参照)と手順、重視すべき考え方等を解説している。
このうちPDFファイルによる情報提供については、PDFファイルと同じ内容のページのHTMLでの作成・掲載やアクセシビリティに対応したPDFの作成などを行い、これが困難な場合はPDFで提供されている内容の概要を説明するページを作成するなどの代替手段を講じることとされている(資料8)。
このあたりは運用ガイドラインをマジメに読んでないのがバレた回、って感じでいやまあそんなこと書いてあったっけ…?
【JIS X 8341-3:2016を満たす方法】
PDFを提供する場合は、以下のいずれかの対応によりJIS X 8341-3:2016を満たすことが求められます。
a) PDFファイルと同じ内容のページを作成し併せて掲載する
PDFファイルの提供に併せて、同じ内容のページを作成(HTMLで提供)します。HTMLで提供するページをJIS X 8341-3:2016の達成基準を満たすように作成することで、ウェブアクセシビリティを確保します。
b) アクセシビリティに対応したPDFを作成する
PDFの作成過程で必要な対応を行うことにより、JIS X 8341-3:2016の達成基準を満たすPDFを作成します。
具体的には、ウェブアクセシビリティ基盤委員会の「WCAG 2.0達成方法集」やアドビシステムズ社の提供する情報に基づいて、PDFを作成します。
これはある意味正しいものの、個人的には「逆」だと思っていて、そもそもMS Wordや/PowerPoint等*1で資料を作成するということはなくならないと思っており、そうであるならば、まずはWordやPowerPointファイルをアクセシブルに作成する方法を習熟するのが先決だろう、と。
言いかえると、コストをかけてでもPDFではなくHTMLに変換すべき文書と、HTMLに変換するのを諦めてアクセシビリティに配慮したPDFに留めるのをより明確にすべきでは、と。 その上で、もはや使い物にならないWCAG 2の達成方法集や、説明が説明になってないAdobe謹製のAcrobatの説明を見限って、MS OfficeでのアクセシブルなMS Officeファイルの作り方にある程度委ねてしまうのも手かなと。
ⅰ チェックツール
・ 「みんなのアクセシビリティ評価ツール:miChecker (エムアイチェッカー)Ver.2.0」(総務省、以下「miChecker」という、https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/michecker.html)
これに関しては技術的な観点からはmiCheckerはとっとと滅ぼした方がよいと思っており、いろいろあって最近インストールしたんですけど、Java8 (x86)を要求するのは確実に化石に片足突っ込んでいるのでは。ほぼメンテナンスされていないツールですし、WCAGが国際規格なのに、日本固有のツールを使っても仕方ないでしょう?と。
ⅱ 読み上げソフト
ⅰ)パソコン用
・ 「NVDA日本語版」(NVDA日本語チーム、https://www.nvda.jp/)
・ 「クリエイター版 PC-Talker Neo Plus」(株式会社高知システム開発、https://www.aok-net.com/pctksdk.htm) ※音声読み上げは実施されないが、読み上げ結果をテキストデータで提供
・ 「ナレーター」(Microsoft社、Windows10以降の基本ソフトに搭載)
ⅱ)モバイル端末用
・ 「VoiceOver」(Apple社、iOSに搭載)
・ 「TalkBack」(Google社、Androidに搭載)
というのはちゃんと技術トレンドをおさえられているわけですから、miCheckerが記載されているのは、まあそういうことなのかな、と。
⑪ 文書内で主に利用される言語を設定していない又は設定内容がWebサイトガイドブックで導入を推奨されているHTML5(※)に準拠していない例(達成基準3.1.1): 2機関
(※)W3Cが2014年に勧告したHTML。なお、2021年には当該技術の後継であるHTML Living Standardが勧告されている。
HTML Living Standardが勧告っていうのはちょっと違うわけなんですけどもそれはさておき、この報告書を作った中の人はちゃんとHTML Living Standardを把握してるという。
表3-(1)-③ 調査対象機関における事例の発生状況並びにウェブアクセシビリティに関する取組及びアクセシビリティ研修の実施状況(平成31年4月1日から令和3年7月15日までの実績)
みたいなのでまあ頑張っている機関が見えますけど(それはそれで取り組むこと自体が素晴らしいですね)、一方で
掲載内容について読み上げソフトが正確に読み上げることについては、CMSによるチェックでは限界があるため、掲載作業の段階で正確な読み上げができるような記載を行っている。例えば、「水曜日」について記載する際は「(水)」ではなく「(水曜)」とすることで、読み上げの際、内容が正確に伝わるようにしている
みたいな本筋ではない対応をしており、その対応はアクセシビリティは関係ないという事例が見られ、こういう斜め上になってしまっているものを抑え込んでいく必要がありますわね、とは。
図表3-(1)-⑫ PDFによる情報提供に関する学識経験者や障害者団体等からの意見
PDF形式による情報提供が非常に多いが、パソコンの場合、PDFを読み上げるために別のソフトを新たに買う必要があるため、様式等をダウンロードしても中身が分からないことがある。また、タブレット端末の場合、基本ソフトに搭載された機能でPDFについても読み上げが行えるが、読み上げる順番が適切でなかったり、読み上げる単位がページごとになるため読み返しにくく、情報を得にくい(特別支援学校)。
買う必要がある…本当に?
【所見】 以上のことから、ウェブアクセシビリティが確保されていない事例が認められた各機関は、ホームページにおけるウェブアクセシビリティを推進する観点から、次の措置を実施すること。
① ウェブアクセシビリティが確保されていない事例について、速やかに改善を図り、事例の箇所を本省庁が編集・管理している場合、本省庁に対して改善措置を要請すること 。
② ウェブアクセシビリティに関する取組の定期的・組織的な実施等により、JIS X 8341-3を踏まえホームページの適切な更新作業等を行い、ウェブアクセシビリティの確保に努めること。
③ ウェブアクセシビリティ研修の実施等を通じ、職員のウェブアクセシビリティに関する必要性の認識や関連知識の習得を図ること。
ウェブページでできてないところは直す、更新作業でアクセシビリティを阻害しないようにする、アクセシビリティの必要性を周知し続ける…という、至極真っ当な結論に至っており、まあ結局そういうことになりますわね……。
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