JIS X 8341-3:2016のいう「サイズの大きなテキスト」について

JIS X 8341-3:2016(WCAG 2.0)では、用語集で「サイズの大きな (テキスト)」が定義されている。WAICの公開しているWCAG 2.0日本語訳のサイズの大きな (テキスト)は次のように記載されている*1

サイズの大きな (テキスト) (large scale (text))
少なくとも 18 ポイント、又は 14 ポイントの太字。あるいは、中国語、日本語、及び韓国語 (CJK) のフォントは、それと同等の文字サイズ。
(中略)
注記 5: 半角の英数字のテキストにおける 18 ポイント及び 14 ポイントのサイズは、拡大印刷の最小サイズ (14 ポイント) と標準的な大きい文字サイズ (18 ポイント) に基づいている。例えば、CJK 言語のようなその他の文字については、「同等な」サイズはその言語での拡大印刷の最小サイズと拡大印刷でその次に大きな標準のサイズとなる。

訳注: 日本語の全角文字の場合は、拡大教科書普及推進会議 第一次報告「第 2 章 拡大教科書の標準的な規格について」に基づき、22 ポイント又は 18 ポイントの太字を「同等な」サイズとみなすのが妥当である。

なお原文は、

large scale (text)
with at least 18 point or 14 point bold or font size that would yield equivalent size for Chinese, Japanese and Korean (CJK) fonts
(中略)
The 18 and 14 point sizes for roman texts are taken from the minimum size for large print (14pt) and the larger standard font size (18pt). For other fonts such as CJK languages, the "equivalent" sizes would be the minimum large print size used for those languages and the next larger standard large print size.

となっている。

ここで注目したいのは、日本語の場合において、訳注にてWCAG 2.0の規定よりも1段階大きなサイズに言及しており、そのサイズを閾値とすることが「妥当」であるとしている。果たして日本語の場合にサイズを大きくすることは本当に「妥当」なのかどうか。このことについて見ていきたいというのがこの記事の趣旨である。

「サイズの大きなテキスト」の用法と由来

「サイズの大きなテキスト」は、達成基準1.4.3で用いられている。WCAG 2.1解説書達成基準 1.4.3: コントラスト (最低限)を理解するでは、意図の冒頭に

この達成基準の意図は、(コントラストを強化する支援技術を使用していない) 中度のロービジョンの人がテキストを読めるように、テキストとその背景との間に十分なコントラストを提供することである。

とあり、

18 ポイントのテキスト又は 14 ポイントの太字のテキストは、より低いコントラスト比を要求するのに十分な大きさであると判断される (関連リソースにある "The American Printing House for the Blind Guidelines for Large Printing and The Library of Congress Guidelines for Large Print"を参照のこと)。

とある。実際に関連リソースのあるAmerican Printing House (APH)のページでは、Best Practices and Guidelines for Large Print Documents used by the Low Vision Community authored by the Council of Citizens with Low Vision International An Affiliate of the American Council of the Blind Arlington, VAのGuidelines*2で、

In general, at least an 18 point, and preferably a 20 point, bold, sans serif, mono or fixed space font is desirable.

というところに見える。同じAPHが運営するVisionAwareというサイトのUsing Large Printでは、

The standard font size for large print is 18 point, ...

という塩梅である。これがWCAG2で18ポイントが標準的なサイズとした根拠、となる。

その他に海外の大活字のサイズに言及しているリソース

アクセシブルな出版物の制作 出版社のためのベストプラクティスガイドラインファイルの作成では、

文書の文字サイズは12-14ポイントにする(14ポイントが望ましい)。

とある。また、すべての人のための図書を製作する方法大活字本では、

弱視の人のための大活字本は、一般の図書よりも文字が大きく、語間と行間が広くなっている。これは他の読者にとっても役に立つ場合がある。ノルウェー視覚障害者団体によれば、一般読者向けのテキストでは、活字サイズの最低基準は12ポイントとなっている。

弱視の人にとっては、14ポイントあるいは16ポイントの方がよい。「大活字本」という言葉を使用するときは、14ポイント以上、行間はダブルスペース、語間は通常よりも広くとり、「クリーンな」書体、すなわちセリフが付いていない、均一な太さの文字を使用する。キャプションについてもこれは同様である。

16ポイントよりも大きな活字を使用する必要はほとんどない。活字を拡大する読書補助器具を使用している人は、一度に2、3語しか見えないので、大きすぎる文字は難しいからである。サボン(Sabon)の文字サイズ13.5ポイントで行間19ポイント、あるいはタイムズ(Times)の15ポイントは、ともに適切である。

「すべての人のための図書」財団では、弱視の成人読者向け小説などの大活字本の製作を支援している。

とある。

「拡大教科書普及推進会議報告書」について

本題のJIS X 8341-3:2016(以下JISとする)の注記で言及されている「拡大教科書普及推進会議 第一次報告」について見ていく。これは、文部科学省「拡大教科書普及推進会議報告書」についてから辿ることができる。ここでおさえておきたいのは、第一次報告とは別に第二次報告もあるということが1つ。もう1つは、この報告を受けて、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律第六条第一項の規定に基づき定める教科用拡大図書の標準的な規格が定められていることである。JISから「教科用拡大図書の標準的な規格」ではなく、規格の作成にあたっての報告書が参照されているのは微妙に思うところではある。訳注から参照する文書としては、規格を参照するのが適当だろう。


ここで、障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律について触れておこう。これは文部科学省「障害のある児童及び生徒のための教科用特定図書等の普及の促進等に関する法律」(通称:教科書バリアフリー法)についてとして案内されている。

教科書バリアフリー法の第6条1項は、

第六条 文部科学大臣は、教科用拡大図書その他教科用特定図書等のうち必要と認められるものについて標準的な規格を定め、これを公表しなければならない。

とあって、先の規格はこの条文に基づいた規格ということになる。ちなみに、この法律が制定されたのは平成20年(2008年)で、教科書バリアフリー法の第6条1項に基づく規格は2010年に改正されている。

教科書バリアフリー法に基づく規格(抜粋)

第1 小中学校段階
1.全般的事項
(2)本規格は、できるだけ多くの弱視児童生徒が利用できるものにするため、文字の大きさとして18ポイント~26ポイント(小学校3年までは発達段階を考慮して22ポイント~30ポイント)程度の文字を使用する弱視児童生徒を対象とする。
また、本規格に適合する拡大教科書の発行にあたっては、文字の大きさが22ポイントの版を基準に、その1.2倍と0.8倍の3パターンの版を作成することとする。

第2 高等学校段階 1.全般的事項
(1)小中学校段階の標準規格に準ずることを原則とする。
(2)教科・科目の多様化や学習内容の増大及び一層多様化する生徒のニーズにも応えられるよう、文字の大きさを若干小さくすることにも留意し、各教科書発行者が作成・発行している原本教科書を単純拡大した拡大教科書(以下、「単純拡大教科書」という)を規格の一つとする。


拡大教科書普及推進会議の話題に戻ると、第一次報告第2章 拡大教科書の標準的な規格についてでは、

○ 標準規格は、小学校及び中学校におけるすべての教科の教科書を対象として定めるものとする(※5)。

※5 高等学校における教科書については、今後、高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方ワーキンググループにおいて更に詳細な検討を行っていく予定である。

とある。つまり、小中学生を念頭において策定されたものである、ということがわかる。

○ 標準規格は、できるだけ多くの弱視児童生徒が利用できるものにするため、文字の大きさとして18ポイント~26ポイント(小学校3年までは発達段階を考慮して22ポイント~30ポイント)程度の文字を使用する弱視児童生徒を対象とし(※6)、更に、文字の大きさが22ポイントの版を基準に、その1.2倍と0.8倍の3パターンの版を作成することとする。

※6 検定教科書の本文の文字サイズは、概ね10.5~18ポイントである。

その上で、18ポイントと22ポイントという数字が出てきている。一方で、第二次報告は、高校を対象に調査・報告されている。第3章 教科書発行者等による拡大教科書の発行量の確保では、

(2)拡大教科書の作成
○ 高等学校段階においては、教科書発行者が作成した拡大教科書は未だ発行されておらず、ボランティア団体も小中学校段階の拡大教科書製作に追われている状況にあることなどから、拡大教科書の利用実績も少なく、小中学校段階に比べて、どのように拡大したらよいかの条件や有効性の分析・検証等は十分に行われていない状況にある。

したがって、高等学校段階において、どのような拡大教科書を作成すべきかについては、本会議においても多角的な方面から議論が行われた。

○高等学校段階において、弱視生徒に提供する拡大教科書は、以下に示す理由から、教科書発行者から発行された原本教科書を単純拡大した拡大教科書(文字の大きさは14~18ポイント程度、以下、「単純拡大教科書」という。)とし、その実現に取り組むべきとする意見があった。

(理由)

  • レイアウトの変更を行うとページ数が増加して、分冊にせざるを得ないが、高等学校の教科書は内容も多いため、小中学校段階に比して分冊数が増えることが予想されること。
  • 高等学校段階の授業展開においては、教科書の章・節や分冊をまたがって使用するなど、その活用方法は多様であり、教員の指示で必要なページや箇所を速やかに探す必要があるため、レイアウト変更した拡大教科書では扱いにくく、単純拡大したものの方が有効な場合があること。
  • 特別支援学校(視覚障害)高等部保健理療科及び理療科(※11)において、使用されている教科書は、文字の大きさが14~16ポイント程度であること。
  • 前述した全国盲学校長会のアンケート調査において、「仮に拡大教科書を提供する場合、どのような教科書が適当か」という設問に対して、文字の大きさが14~16ポイントになるように単純拡大したものがよいとする回答が多数を占めたこと。(※12)

○ また、一方で、以下に示す理由から、小中学校段階と同様に標準規格を策定し、レイアウト変更した標準拡大教科書を発行すべきとの意見があった。

(理由)

  • 単純拡大教科書による14~18ポイントの文字では、例えば、中学校3年生まで(義務教育段階の標準規格の1つである)26ポイントの文字で学習してきたような強度の弱視生徒に対応できないこと。また、文字間や行間も比例して拡大されるため、読書効率が下がるおそれがあること。
  • 本文より小さな文字で書かれている注釈や新出語句、添え字などの文字は読みづらいと考えられること。また、字体がゴシック体に変えられない場合、明朝体では横画が細く誤読の可能性が高まること。
  • 平成12年に行われた、全国の特別支援学校(視覚障害)の中学部・高等部の弱視生徒に対する英語の拡大教材の調査においては、22ポイント、28ポイントのものを希望する生徒が多かったこと。
  • 小中学校の標準的な規格として示された18ポイント、22ポイント、26ポイントの文字サイズは、高等学校段階の弱視生徒にも有効であると考えられること。
  • 単純拡大教科書のうち、B4やA3に拡大したものは判が大きく、持ち運びが不便であること。また、学習の際、机上を占める教科書の面積が広くなり、かなり眼を近付けて読書する弱視生徒の場合、顔の移動距離が大きくなってしまうこと。
  • 複雑にレイアウトされている検定教科書を単純に拡大しただけでは、弱視生徒が教員の指示に沿って必要な箇所を速やかに探すことは困難な場合があること。

○本会議としては、これらの意見及び第2章1.に示した基本的な考え方を踏まえ、高等学校段階における拡大教科書は、標準規格に適合する標準拡大教科書を小中学校段階と同様に提供するとともに、高等学校段階のより一層多様化したニーズにも応えられるように、単純拡大教科書も選択肢として、提供していくことが適当と考える。その上で、希望する生徒に対して教科書発行者等が作成する拡大教科書を提供することを基本とし、高等学校段階における標準規格の策定に向け、実証的な研究に早期に取り組むべきと考える。基本的な進め方としては、小中学校の標準規格に準じた拡大教科書を試行的に発行・供給するとともに、単純拡大教科書についても積極的に活用することにより、高等学校段階のより望ましい拡大教科書のあり方について、実証的な調査研究を行う必要がある。


※11 特別支援学校(視覚障害)高等部には、専門教育を行う学科として保健理療科や理療科があり、これらの学科は卒業によってあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家試験の受験資格が得られる。ここで使用される教科書については、全国盲学校長会が中心となって「盲学校理療教科用図書編纂委員会」を設け、教科書の基本的仕様を定めている。

※12 「文字の大きさ(14~16ポイント)になるように、検定教科書を単純拡大した教科書を3種類用意」が特別支援学校(視覚障害)69校中37校、「レイアウト変更した18、22、26ポイント程度の拡大教科書」を選択した学校が17校であった。

文字の大きさについては、レイアウトを変更した拡大教科書で小中学校と同等の大きさが適当とする意見がある一方で、原本教科書を単純に拡大したレイアウトを変更しない拡大教科書で14~18ポイント程度が適当とする意見もある。

なお、第2章 高等学校段階における弱視生徒への教育方法・教材のあり方では、

発達の段階が進むと、読書効率が最大となる文字サイズは徐々に小さくなるという調査結果が見られる。しかしながら一方で、進行性の眼疾患等によって、必要とする文字サイズが大きくなっていく者も見られる点に留意する必要がある。

ともある。さまざまなロービジョンの方がいるわけだが、報告書から読み取れる規格の策定経緯からしても、教科書バリアフリー法の規格をもって、ただちに22ポイントと18ポイントの太字が「同等な」サイズとみなすことについては、再考の余地があるのではないか…?

そのほかの日本の大活字のサイズに言及したリソース

コトバンク(日本大百科全書)の大活字本では、

一般的な文庫版の文字組は9~10ポイント(1文字約3~3.5ミリメートル角)程度の大きさであるが、大活字本では、12ポイント(同4.2ミリメートル角)~22ポイント(同7.7ミリメートル角)の見やすい書体が採用されている。

とあって、12ポイントが下限値、22ポイントが上限値となっている。

千葉県立図書館の視覚障害について調べるでは、

活字の大きさが8~9ポイントの本が多い中、ロービジョン(弱視)の人も読みやすいよう、活字の大きさ(14~22ポイント)やフォントが工夫されている本。

としている。

レファレンス協同データベースには大活字本の出版状況について出版されているタイトル数を知りたいです。では、質問として、

大活字本の出版状況について出版されているタイトル数を知りたいです。 大活字の定義は、出版社に任せます。(18pt以上が一般的かと思いますが、14pt以上であってもかまいません。) 公の数字として、出典を提示できるものであれば、どのような出版物でもかまいません。

と、少なくとも質問者は18ポイントをひとつの目安として、14ポイントを下限と捉えているようである。回答としては、

大活字図書に関わる専門機関である大活字文化普及協会に問い合わせましたところ、下の2点の内容の回答をいただきました。
(1) 大活字本について、文字の大きさなど、各出版社の定義づけがそろっていないので、「大活字本」として出版点数の把握は難しいと考えます。
(2) 当方では大活字社から発行しているもの(文字サイズ22pt)を大活字本と考えているので、(以下省略)

とある。大活字社は22ポイントを大活字と考えている。

日本視覚障害者団体連合(日視連)の弱視部会による弱視者の困り事 資料集第6号という報告書がある。この中のⅡウェブサイトやアプリ等に関する困り事の6.弱視者(ロービジョン)が読みやすいフォントでは、

私が仲間と一緒に作った本を出版した際、このUD教科書体を使用し、本文は横書き12ポイントにしたことがある。軽度の弱視者(ロービジョン)からは「読みやすい」との評価があった。

とある。また、Ⅲ日視連加盟団体での弱視(ロービジョン)に関する取り組みとして、

(5)京都府視覚障害者協会 協会の中に「生活環境改善部」があり、ここで弱視(ロービジョン)に関する要望活動等を行っている。要望活動の中では(中略)、市が発行する広報誌を14ポイントのゴシックを標準的な仕様としてもらったり、(以下略)

というような記述もある。なお、この報告書のPDF版は、MSゴシック14ポイントの太字で作成されていると認識している。

ツール類の現状

現状では、たかだか国家標準の訳注にしか過ぎないので、当然アクセシビリティチェックのためのツール類も対応していない。

14pt太字 コントラスト比3.02:1(訳注に従えば18pt必要)

18pt コントラスト比4.64:1(訳注に従えば22pt必要)

少なくともChomre/Firefox、axeについては上記を合格と判定する。

まとめ

JISの訳注にあるとおり、英語などよりも1段階大きなサイズ(22ポイント/18ポイントの太字)を日本語で「同等」とみなすのか、英語などと同じサイズ(18ポイント/14ポイントの太字)を「同等」とみなすのか。「拡大教科書普及推進会議報告書」で見て取れる規格策定の経緯と、実際に流通している大活字本の中には18ポイントを下回るものがあることから、欧文と同じサイズの基準でもよいのではないか、と感じた。少なくとも、報告書ではなく規格を参照すべきではないかという観点から、訳注の記載を見直す必要はあると考える。

もちろん、JISの訳注の記載については、改めてロービジョンのコミュニティの意見を聞く必要があると考えるが、海外のように、日本の当事者団体がこう考えるという文書を出してもらうのが正道だろう。(そのような文書を見つけられなかったので、こうして調べたことになったともいえる。)

JISの訳注ではなく、W3Cの文書に「同等な」サイズについて記載する必要もある。WCAG 2.2は策定が進んでしまったこともあり、今からここに記載するのは難しいが、Understanding WCAG 2.2(解説書)に盛り込むのはハードルが下がると考える。

また、現状ではCJKと一括りで言及されているが、中国語や韓国語のコミュニティの意見がどうなっているのかも調べる必要があるだろう。

日本語の場合に訳注のとおり22ポイント/18ポイントの太字とした場合、当然、アクセシビリティチェックのツールも対応させるべきだろう。その意味でも、同等のサイズについて、究極的にはWCAG2の用語集に取り込む必要があると考える。

*1:ちなみに、JIS X 8341-3:2016と、WCAG 2.0のWAIC訳とで内容が微妙に異なっている

*2:2.1解説書の関連リソース https://waic.jp/docs/WCAG21/Understanding/contrast-minimum.html#resources からは、 Guidelines for the Development of Documents in Large Print https://www.aph.org/resources/large-print-guidelines/ が提供されているが、PDFということもあり、同等のことが書かれているHTMLページを選んだ