令和5年版障害者白書とアクセシビリティ

6/20(火)に障害者白書が公開されていました。

令和5年版 障害者白書 全文(PDF版)
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r05hakusho/zenbun/index-pdf.html

第1章 障害の有無により分け隔てられることのない共生社会の実現に向けた取組
第2節 障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策の総合的かつ計画的な推進
https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/r05hakusho/zenbun/pdf/s1-2-1.pdf

1.第5次基本計画の策定の経緯
(1)第5次基本計画の検討開始までの主な取組

第4次基本計画では、我が国が障害者権利条約を批准した後に初めて策定される障害者基本計画として条約との整合性確保に留意しつつ、各分野に共通する横断的視点として、(中略)「社会のあらゆる場面におけるアクセシビリティ(※1)の向上」(以下略)

※1:アクセシビリティ
   施設・設備、サービス、情報、制度等の利用しやすさのこと。

いつからそうなってたのか、は知らないですけれども、「利用しやすさ」とここではっきり書かれてしまうとなかなかつらいものがあるかなと思うところではあります。

Webアプリケーションアクセシビリティで「アクセシビリティは利用しやすさ?」という投げかけがある1ように、利用しやすいかどうかの手前に、利用できるかどうかというのが問われてくるだろう、という考え方ができます。言いかえるならば、ユーザビリティの土台としてアクセシビリティがあって、まずそもそも利用できないものを利用できるようにするところからなのでは…というものです。ある種「本丸」である障害者白書が「利用しやすさ」という認識で本当に大丈夫なのかしら…。

基本的に1.2節に書いていることは第5次障害者基本計画に書いていることなので目新しいものはないという認識ですが、基本計画よりかは読みやすいと思います。1.2節 4/4あたりには情報アクセシビリティのことが書いてあって、実は障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法にそこそこ文章量が割かれているんだと改めて感じた次第です。

とはいえ、法に基づく障害者による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する協議の場第2回議事概要なんかは、読んでて頭を抱えたわけですが…なかなかに厳しいものがあるなぁ…というのが雑な感想ではあり。

まあそのあたりは、2019年に書いてた国交省方面の記事23でもうっすら観測していたのですが、「利用しやすさ」と捉えるならそれはそうなるか…?というのが3年半越しの感想ではあるのですが、思っていたよりもこれはよろしくない…のかもしれません(1つの技術的な観点からとして)。

さて、別の章に目を向けますと、

第5章 住みよい環境の基盤づくり
第2節 障害のある人の情報アクセシビリティを向上するための施策
「1.情報アクセシビリティの向上」は5.2節 1/4に書かれてるわけなのですけども、ここでは、

(4)ホームページ等のバリアフリー化の推進

総務省では、公的機関がウェブアクセシビリティ(障害のある人や高齢者を含め、誰もがホームページ等で提供される情報や機能を支障なく利用できること)の向上に取り組む際の手順書となる「みんなの公共サイト運用ガイドライン」(2016年)を策定し、ウェブアクセシビリティの確保・向上に取り組んでいる。

とあって、見出しのバリアフリーどこ行ったんですかね…というツッコミはできるにはできるわけです。ですけれども、本題はむしろ、「情報バリアフリー」と「情報アクセシビリティ」がごっちゃになっているというところでしょうか。これについては、WAICが出した「障害者基本計画(第5次)案に関する意見募集について」へのパブリックコメントの「コメント1」でいろいろ言っていたりします。

その中で、平成26年(2014年)1月30日付けの外務省訳の権利条約では、「第九条 施設及びサービス等の利用の容易さ」とあって、この翻訳はいかがなものかというのは国連審査でも指摘されています4。つまり、2014年には「利用しやすさ」という正確とは言いがたい翻訳がなされてしまっていると言えるでしょうと。

ところで、国立国語研究所「外来語」委員会が「外来語」言い換え提案というものを平成18年(2006年)に出しており、そこではアクセシビリティーの語が立っており、言い換え語として「利用しやすさ」というものが提案されていたりします…ゴンお前だったのか(?)

いずれにせよ、条約が批准された2014年には「利用しやすさ」という微妙にaccessibilityの持つだろう意味とは異なったものが当てはめられており、これが政策を歪めてしまっているのでは?というのが現時点での筆者の見解です。

ちなみに中国語では可达性(可達性)という語が当てられているそうで、このほうがよりアクセシビリティをうまく表せているのでは?という説が一部であったりなかったりするようです。


あと、

(メモ)「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」二次答申(案)に関する意見募集とか
https://momdo.hatenablog.jp/entry/20230509/1683590173

のアンサーが出てるぞ、ってマックでJKが言ってた。

総務省|報道資料|「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu20_02000001_00007.html

「2030年頃を見据えた情報通信政策の在り方」 二次答申(案)に対する御意見及びその考え方(案)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000883921.pdf


  1. 当該の4ページは公開されているサンプルPDFファイルで読むことができます。
  2. 2019-10-03 国交省の交通バリアフリー方面の検討会でウェブアクセシビリティに関する議事概要が結構アレゲな件 https://momdo.hatenablog.jp/entry/20191003/1570112620
  3. 2019-11-04 手話の話を枕に、例の国交省検討会の議事概要から https://momdo.hatenablog.jp/entry/20191104/1572793585
  4. 2022-09-10 (メモ)障害者権利条約 1回目対日国連審査の資料まとめ https://momdo.hatenablog.jp/entry/20220910/1662784517