細かいところ目を瞑れば、これからアクセシビリティに取り組むにあたってのとっかかりとして、ほどよいリソースだと思っているデジタル庁のウェブアクセシビリティ導入ガイドブックですが*1、いろいろあってちょっと読み返してみました。
大なり小なり引っかかる点はいくつもあるのはまあ置いておいて、その引っかかった箇所のうちの一つがこの記事のタイトルです。ガイドブックにはこうあります。
本当にそうなの?という疑問が出てきます。ということで、Google Books Ngram Viewerでざっくり調べてみました。ちなみに、Ngram Viewerというのはカレントアウェアネス E2533いわく、
一般に“ngram viewer”と言った場合,書籍の全文テキストデータを利用して,特定の単語やフレーズの頻度を出版年代に沿って可視化できるサービスを指し,2010年に公開された“Google Books Ngram Viewer”がその端緒である。
ということだそうで、今回の目的にぴったりと言えそうです。accessibilityとusabilityで調べてみた結果が以下です(元グラフ)。
面白いことに、常にaccessibilityがusabilityよりも値として上回っており、2倍ほど違うのは意外な感じを受けました。
さておき、グラフでは単語accessibilityもusabilityも増加傾向にあるわけですが、インターネットの普及という意味でマイルストーンになるだろう、Windows 95が発売された1995年に注目してみます。accessibilityに関しては、収録データで最新の2019年と1995年とでパーセンテージでほぼ同じと言えますし、usabilityについては1995年のパーセンテージは、2019年の半分程度となっています。
World Wide Webが誕生した*2とされる1989年を基点とするなら、usabilityはインターネットもといウェブの普及にあわせて増えていったということがまだできそうですが、accessibilityは極大を示している1978年と同程度であり、これは2019年と大きな違いはありません。このグラフを信じるならば、ちょっとデジタル庁の説明は怪しいのではないでしょうか。
でもこれは英語の話でしょう?と言われるとつらいものがあるわけですが、日本語を収録している、国会図書館が公開しているNDL Ngram Viewerは、
図書については刊行年代が1960年代まで、雑誌については刊行年代が1990年代までの資料を主に対象
としているので最近のデータが取れません。あまり深く考えずに「アクセシビリティ」と「ユーザビリティ」でグラフを打ち出しても、下記のように2000年でガクンと値が落ちます(元グラフ)。これは雑誌データが2000年までしかないためと思われ、有意な結果とは言えないでしょう。ここでもアクセシビリティのほうがほとんどの年で上回っているのは意外だという感想はあるのですが。
では2000年までのデータでなにか面白いものが出せないか?ということで、「アクセシビリティ」と「ユーザビリティ」に、「バリアフリー」を加えて打ち出したのが次のグラフです(元グラフ)。
「バリアフリー」の出現頻度は1994年で1500,2000年で約14000と急速な伸びを示しているのに対して、「アクセシビリティ」は1994年で289、2000年で616、「ユーザビリティ」は1994年で23、2000年で413となっており、10倍以上の差が付けられています。このグラフを信じるなら、2000年時点ではアクセシビリティもユーザビリティもどんぐりの背比べであり、バリアフリーのほうが圧倒的な存在感を示していることになります。
ところで、WAICの「障害者基本計画(第5次)案に関する意見募集について」へのパブリックコメントで言及されているように、「バリアフリー」と「アクセシビリティ」で法律上の言葉の混用が見られるわけですが、一方で導入ガイドブックでは「バリアフリー」という語は一切出てきません。「ガイドブックの目的」では、
とあって、まあそういう目的のリソースじゃないといえばそうなんでしょうが、言葉の頻度という話を持ち出すのならば、「バリアフリー」を引き合いに出しつつ、「アクセシビリティ」との言葉の関係性についてガイドブック中で触れられてもよいのではないかと思ったりもします。
話がそれてしまいましたが、そもそもこのガイドブックは、
とあって、いってしまえば「信じてくれるな」ということになります。ただ、だからといって、わかりやすさのために怪しげな説明を混ぜ込んでもいいというものでもないでしょう。
ちなみに冒頭でリンクしているHTMLのページ「位置付けとロードマップ」では、
とあり、この状態でそのままガイドラインに編入となると、それは話がまた別ですよね…というお話でした。
*1:この記事を書いている時点で2023年5月12日版が最新なので、このバージョンの話をします